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ーー
「ただいまー」
「あ、杏珠お姉ちゃん! おかえり。見て見て~」
リビングに入るなり、幼稚園生の妹が何かを持って駆け寄ってきた。持っていたのは人形だった。
30センチくらいの女の子の人形で、ツインテールがぴょこんと跳ねている。ピンクのワンピースを着て、ピンクのサンダルを履いている。
昼に歩美からあんな話を聞いた後だからか、思わず後退ってしまう。
「かわいいやろ? 幼稚園で借りてきてん」
「幼稚園で人形なんか貸してくれんの?」
そう訊いたけれど、杏莉は人形に夢中でわたしの話なんて聞いていない。代わりにキッチンにいたお母さんが答えてくれる。
「あんまりにもその人形を杏莉が気に入ってたから、特別に貸してくれたんよ。人形から離れたくなさすぎて『帰りたくない!』って駄々こねてな」
優しい幼稚園もあったものだ。
杏莉は嬉しそうに笑って、その人形の頭を撫でていた。
ーー
わたしと杏莉は同じ部屋で寝ている。2段ベッドの上がわたしで、杏莉が下。
杏莉は今日借りてきた人形と一緒に寝るつもりらしく、ベッドの中に人形を入れていた。まだしばらくお風呂から出てこないだろう。
わたしはつい、ほんの出来心で、その人形に話しかけた。
「わたしの代わりに、英語の宿題をやってください」
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