レンタル人形

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「あ。宿題忘れとった」 お風呂上りの濡れた髪をタオルで拭きながら部屋に入る。机に出しっぱなしにしていた宿題を見て、すっかり忘れていたことを思い出した。 杏莉のベッドを見る。心地よさそうに眠る杏莉の隣で、行儀よく毛布を被った人形があった。 「わたしの代わりに、机に出してある宿題を全部やってください」 こういう頼み事ならいいんだよね。 わたしは、明日の授業で先生に褒められる自分を想像して言った。 その瞬間、わたしの視界が変わった。 体が動かなくなった。 目に映るのは天井。床に倒れた……? 「あなただけズルいよ」 自分の声が聞こえた。けれど、話しているのはわたしじゃない。体も口も動かせない。話し方だって私と違う。 「わたしだって褒められたいのに。どうして本当に宿題をやっているわたしは、誰からも褒められないの? ズルいよ」 ”わたし”が視界に入った。”わたし”はピンクのワンピースを着ていた。それはレンタル人形が着ていたワンピースのはず……。 「安心して? わたしがあなたの代わりに”杏珠”を生きるから。あ、話し方も変えないとだよね。えっと……。これからあなたがレンタル人形になるんやで。次に願い事を叶えるんは、あなたやで。頑張ってな」 にっこり笑った”わたし”は、わたしを片手で持ち上げて、杏莉のベッドにそっと置いた。
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