出張『密室恋愛』

オレンジペコー

「いい香りですね」
カップを持って現れた管理人さんに声をかける。

「トワイニング社のオレンジペコーです」

そう言われても茶葉の違いとか正直さっぱりわからない。俺は遠慮がちに一口すすった。

「オレンジの味はしないんですね？」

そう言うと、管理人さんはフハッと笑った。

「オレンジペコーは本来『大型茶葉』という意味なんですよ。オレンジの味がするのではなく、茶葉の大きさを示す等級の一つなんです。茶葉の部位で言うと、お茶の新芽の最先端から２番目の葉を指します。
今日お出ししたのはイギリスの老舗トワイニングから販売されている「オレンジペコー」という商品名の紅茶でして、セイロンティーのブレンドなんです」

そうなのか！　知らなかった。
知ったかぶって「オレンジの風味がしますね」とか言わなくて本当に良かった！

俺は恥ずかしくなってうつむきながらもう一口紅茶をすすった。