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「Mrs.パンプキン? どうしたの? 早く行きましょう」  そう手を伸ばしたのは数段だけ先に階段を上がった女性。ベネチアンマスクを付けていても思わず見惚れてしまう程に美しく愛らしいのはその容姿だけではなく可憐なドレスを身に纏いガラスの靴を履いているからだと思う。  それに比べて私は……。引け目を感じ無意識に視線が下がった。 「何言ってるの? あなたも十分素敵よ」  いつの間にか目の前まで下りて来ていた女性は微笑みながらそうい言ってくれた。  ほら、と手を取る彼女の声に自分へ視線を落としてみると、彼女の言う通りいつの間にか私も綺麗なドレスを身に纏っていた。 「あなたはもうただの馬車なんかじゃないわ。さぁ、一緒に舞踏会を楽しみましょう!」  彼女は私の手を引いて階段を駆け上がり始める。  心も躍る演奏に素敵な王子様。私は念願の舞踏会に近づいていると思うとまるで初めて夜の街へ出かける少女のような表情を浮かべていた。  いつの間にかもう手は引かれず隣に並び競争でもするように階段を駆け上がる。そして階段を上りきると大きなドアを二人で勢いよく開けた。  冷たい風が私たちの顔を撫で、間を駆け抜けてゆく。それと同時に私の前に広がったのは、淡く光り輝き辺りを照らす紫雲木(しうんぼく)と様々な人で賑わう会場。幻想的な――この世のモノとは思えないほどに綺麗な光景だったがどこか不気味で儚さを感じた。 「わぁー。何て素敵な舞踏会なの! この中にきっと私の王子様がいるはず!」  隣で女性は目を輝かせながらそう言うといそいそと人混みの中へ消えて行った。  その背中を見送ると私は改めて会場に集まった人たちに目をやる。  人狼に骸骨、案山子(かかし)、蕪や南瓜などの異形頭、化け猫に人造人間。見渡せばありとあらゆる人たちがお菓子を口にしたり、おしゃべりをしたりして楽しんでいた。  だけど決まって全員仮面を被っている。気が付けば私も。それに加えスーツやタキシード、一人一人が唯一無二の女王のように美しいドレスで着飾っていた。  そんな光景にまるで蜜に誘われる蝶のように私は会場内へ。一歩足を踏み入れるともう後戻りは出来ないと言わんばかりに背後でドアが閉まった。  だけど私は全く気にしない。魔法の国に迷い込んだ子どもみたいに不思議で煌びやかな場所に目を奪われてしまっていたから。
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