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 あっちでは鉄塔がどうだとか話す魔女。こっちではお腹を抱えて笑う骸骨。あそこでは理想郷を夢見る南瓜頭。こちらでは男を品定めし騒ぐ猫娘たち。  頭上を飛び去るパンプキンパイに足元を通り抜ける黒猫。骨付きキャンディには当たらないようにしながら私は更に奥へ進んだ。  すると目の前には酔っぱらっているのか陽気に大合唱する蟻の群れ(よく見れば色々な人も混じってるが)。  私はその歌を楽しく聞きながらも野次馬のように集まった人々を掻き分け進んだ。まるで先に冷たくも熱い冒険が待っているとも知らずにぎっしりと詰まった衣類の中を進むように。  四方から押されながらも一歩一歩進み、やっと群衆を抜けたかと思ったけど最後に(何かに躓いたのか誰かに押されたのかは分からないけど)大きくバランスを崩してしまった。そして覚束ない足で数歩進んだのち、転んでしまう。  すると私が体を倒し両手を床に付けた途端、優雅な音楽も陽気な歌も騒がしい話し声や笑い声も全ての音という音が消えた。さっきまでの盛り上がりが嘘のように一瞬にして無音の世界へ引きずり込まれた。  小さな音を出せば取り返しのつかないことになってしまいそうな雰囲気の中、私は静かに自分の来た方を見遣る。さっきまで大合唱をしていた群れは一人残らず私の方へ目を向けていた。それだけじゃない周りの人たちも、ウェイターでさえ。全ての視線が私を射抜いている。  するとコツ、コツ、と一つ一つが隅の隅まで響くゆっくりとした足音が(群れとは反対側から)聞こえてきた。と同時に辺りは照明が消えたように真っ暗になり私だけがライトで照らされた。舞台上でスポットライトを浴びるように。  突然のことに困惑していると足音はすぐそこまで近づき止まった。私は顔を前(足音の方)へ向ける。 「あぁ――Mrs.パンプキン。大丈夫ですか?」  その言葉と共に女性のように綺麗な手が差し出された。手を見た後に視線を目の前でしゃがむ人へ(その人も私同様にライトを浴びていた)。
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