4

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

4

 それは暗い青色の髪に優し気な笑みを浮かべた、どこかの国の王子様のような男性。だけど同時に何故か不気味で危険な重々しい空気も感じた。髪と同じ色をした瞳を見ているとどこか深く暗い場所へ連れ去られてしまいそうな不安と恐怖に駆られる。  しかしそれでいて目を逸らすことは出来ず魅了されたように心奪われ――気が付けば優しさに応えその手に自分の手を重ね合わせていた。ひんやりと冷たい手。だけど私の少し火照った手に(転んだ恥ずかしさかこの人へ胸の高鳴りか分からないけど)とっては気持ちの好い手だった。  そんな彼の手も借りて私が立ち上がると暗かった辺りは指の鳴らした気持ち良い音と共に明るさを取り戻す(依然と盛り上がる音は無いが)。  そして気が付けば彼の一歩後ろには他に三人の男性が立っていた。  右側には髪の毛からタキシードに至るまで全てが真っ白な男性が一人。服装の所為かその肌も白っぽく見える。ジト目の顔には覇気が無く全体的に儚さを感じた。  そして左側に立っていたのは、マントを付けて蝙蝠型の蝶ネクタイをし長く尖鋭な犬歯を持った男性と桃髪に少し吊り上がった大きな目にいくつかの指輪、時折髪から顔を覗かせる白いピアスの男性。  全員仮面は被って無くて他の人達とはどこか雰囲気が違った(説明はできないけど)。  すると助け起こしてくれた彼は私から手を離し横を通って少し前へ出た。その背中を追うように私も前を向く。  いつの間にかあの群衆に加わるように集まって来ていた人々は彼の言葉を待つように静かに視線だけを向けていた。 「年に一度の月にも秘密な舞踏会へお集りの皆さま。お楽しみいただけてるでしょうか? 今宵は月も眠り扉は開かれ棺も消え去る――特別な夜。全てが交わり混ざり合う素敵な夜。死神すら魂を奪わず愉しむ夜です。――さぁ、思う存分踊り狂いましょう。月が目覚めるその時まで」  彼の言葉の後、後ろから指を鳴らす音が(位置的にはあの桃色の髪をした男性だろうか)聞こえた。そして更にその音の直後、私は背中を恐怖に撫でられ勢いよく後ろを振り返る。  だけどそこにいたのはあの三人(それとそれぞれの隣に仮面を被った女性)。心の中で首を傾げていると何かに誘われ視線を上空へ。天井までの広々とした空間にはタキシードに身を包んだ骸骨のオーケストラが霧のようにスッと現れ楽器を構えた。 「さぁMrs.パンプキン。私と踊ってくれますか?」  耳元で囁かれた声に再び振り返ると目と鼻の先には彼が立っていた。最初同様に優しくもどこか不気味な笑みを浮かべながら。  彼の手は私の手を握ると上へと持ち上げ、もう片方の手は背へ回る。  それを合図にしたのかたまたまタイミングが噛み合っただけなのかオーケストラの演奏が始まった。音をこの空間に馴染ませ浸透させるように――永い眠りから目覚めるように最初は静かにと。  そして開始の合図を告げるようなヴァイオリンの音と共に私たちを含むペアを組んだ人々は一斉に踊り出した。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!