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そして私を次に待っていたのはあのマントの男性。
「Mrs.パンプキン。君も中々に美味しそうだ――おっといけない。今は踊ろうか」
何故か彼の口元からは赤い一筋の線が伸びていた。だけどそれが何を意味しているのか私に訊く勇気は無く彼のエスコートするまま踊り始める。
彼のマントはドレスの裾のように閃き、時折笑みを浮かべれば長く尖鋭な犬歯が顔を覗かせた。その犬歯に今にもかぶりつかれそうな不安はあったものの優しくも楽しそうな笑みを浮かべる彼を信頼し踊りを楽しむ。
それからどれくらい踊っただろう。またアレだ。さすがに三度目となればすっかり慣れたもので私もそれがダンスの一部であるかのように彼から離れ桃髪のあの人に受け止められた。
「ちゃんと謳歌したかい? Mrs.パンプキン。でもそれを越える一番愉しいダンスを俺と踊ろうか」
私を気遣ってくれたのか最初はゆっくりと踊り始め――段々と大胆かつ華麗に。それはまるで自分がこの舞踏会の主役になったかのような踊りだった。
不気味さも儚さも奇妙さも感じない彼。白紙のように何も感じない彼からはただその髪色のようにほんのり甘い香りがした。誘惑する花のように柔らかで恍惚としてしまいそうな香り。
「これは俺からのプレゼントだ」
彼の手が背に周り息がかかってしまいそうな程に近づいた時、囁くような声でそう言った彼は指をパチンと鳴らす。すると彼の手には一輪の花が現れた。
それは穢れ無き白の花びらと中心にワンポイントオシャレのように黄色を添えた白蓮華。
彼はそれを私の胸元へブローチのようにそっと付けてくれた。
そしてそれからも骸骨オーケストラの演奏で舞い踊っていた私は知っていたと言うように彼の手を離れると最初のあの人のもとへ戻った。
「おかえりなさい。Mrs.パンプキン」
私を受け止めた彼は微笑みと共に包み込むような声でそう言った。密着する程に抱き寄せられた体。そんな私はドレス越しで背に触れる彼の手の冷たさを感じていた(直接でもドレス越しでも彼の手は一定の冷たさを感じさせていたのはなぜだろうか?)。
すると彼の視線は私の目から下へと下がり胸元まで落ちる。
「これは……**か」
恐らく名前を言ったのだろうけどそこはノイズがかかり上手く聞き取れなかった。
「白蓮華……。確かに君のように美しい花ですね」
彼は呟きながら力を抜いた手を花へ伸ばす。長い指の先がゆっくりと近づいて行き花びらに触れた途端――白蓮華は一気に黒く染まりながら萎んでしまった。
「おっと。これは失礼」
抑揚のない声で一言謝ると彼は絶望したような白蓮華を片手で包み込んだ。そしてお披露目するように手を退けると、もうそこには黒く萎んだ白蓮華の姿は無く新たに真っ赤な曼珠沙華の姿が。
「こっちの方がお似合いですよ」
その言葉の後、取り残されたように止まっていた私たちは周りと演奏に合流した。
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