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楽しい愉しいダンス。手に触れ体に触れている彼との踊りに夢中になっていた私の周りからはいつの間にか人々が消えていた(もちろんただ私が見えなくなっていただけだけど)。そうなるとこの広々とした場所もオーケストラの演奏も全てが自分の為だけにあるような気がして解放感というか特別感というか――とにかく最高の気分だった。
だけどそんな時間にも平等にやってくる幕引き。
オーケストラは跳ねた水滴が再び水面に落ち波紋を広げ消えていくような最後の音を奏でた。静かにこっそりと世界に溶け消えゆく音。そこに残ったのは全てが片されたお祭り会場のような寂しさと胸の奥底に灯る愉しかったという想い出。
満足感が私を満たすのと同時に物足りなさが不満そうな表情でこちらを見ていた。
「お相手ありがとうございます。Mrs.パンプキン」
彼は丁寧にそう言うと私の手の甲へ口づけをした。私はそれにカーテシーで返す。
さて、次は誰と踊ろうか? そんなことを考えながら辺りを見回した。
丁度その時。見上げる程の大窓からライトのように強い光が私たちを照らした。私は手で目元に影を作りながら顔をその大窓へ向ける。外から覗き込んでいたのは真ん丸い月だった。
「あぁ、Mrs.パンプキン。お迎えに参りました」
低く心臓まで響く声は確かにそう言った。もう終わりだと。
だけど私はまだ踊り足りない。
「なりません。これは一夜限りの舞踏会。時が来れば棺は閉まり、静寂の中で朝を迎えるです。行われたが何もなかった。月の私でさえ知らぬ秘密の舞踏会なのですから」
それでも私はまだ……。誰か私と、そう思いながら辺りを見回すがもうそこにはあの四人以外誰も居なかった。
「お呼びでしょうか? Mrs.パンプキン」
すると困惑の中、声がひとつ聞こえてきた。
その声を見遣るとそこにはあの蕪頭の姿が。深く被ったハット帽を手で押さえこちらを見る目は沼のように重苦しい闇を思わせる不気味さで光っていた。
「もしよろしければこの私と踊りませんか?」
言葉と共に差し出された手。この手を取ればもっと踊っていられる。
私は意識とは関係なく手を伸ばし始めていた。ゆっくりと白い手袋を填めた手へ近づいていく――あともう少し。
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