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そして指先が触れそうな距離まで接近した手と手だったけど、触れ合う直前で一気に引き離された。
遠ざかったのは私。もう片方の手を引かれ後ろへと戻されてしまった。ただただ吃驚しながら二~三歩後ろへ下がらされた私は誰かにぶつかって止まる。それとほぼ同時に二本の腕が体を守るように抱き締めた。
「舞踏会はもう終わりだよ。君ももう帰る時間だ。――それとも強制的に連れ戻されたいかい?」
その言葉を聞き終えた後、私は後ろを振り向いた。声で分かっていたけど私の手を引き、受け止めたのは彼だった。そして彼の左右には他の三人が並んでいる。
それを確認しもう一度前へ顔を戻すと、蕪頭は差し出していた手を下げハット帽を軽く上げて見せた。ハット帽を戻すとクルリと体の向きを変えドアの方へ歩き始める。
それを見送ると彼は体から手を離し私を自分の方へ向かい合わせた。
「さぁ、Mrs.パンプキン。残念ですがお別れの時間です」
でも。私はまだ。
だけど私の意志など関係ないと言うようかのようにドアは勢いよく開かれ、流れ込んできた暗闇が私を包み込み――そのまま体を持ち上げる。
私は必死に抵抗したが蟻が人の足を退けようとするのに等しく無駄なことだった。
思わず彼へ助けを求め手が伸びる。
「Mrs.パンプキン。また来年お会いしましょう。――いえ、もしかするとそれより早くお会いできるかもしれませんね」
そして不敵な笑みを浮かべた彼の姿を最後に私はドアへ(一瞬にして)引きずり込まれた。
* * * * *
「さぁ、ごらんなさい」
妖精はそう言うと二つ並んだ南瓜の内の一つを杖で叩こうとしたが直前で止めた。
「やっぱりこっちにしましょう」
もう一度杖を振り上げると触れるように隣の南瓜を叩く。その南瓜は煌びやかな光に包まれると瞬く間に大きく立派な馬車へと変身した。
それからネズミなどを白馬と御者、お供へ変えると綺麗なドレスを身に纏った女性を乗せた馬車を最後まで見送った。
「さて」
そう呟きながら残った南瓜の方を向く妖精。
「あなたは私と一緒にお家に帰りましょう」
妖精はそう言うと南瓜を一つ抱えながら姿を消してしまった。
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