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リツの行方/疑いの末路
六階建ての団地の階段を四つ上り、クリーム色の扉を開ける。するとスパイスの匂いがふわりと私の鼻に流れ込んできた。
「あっお母さん、おかえり」
制服のワイシャツにスカートのままエプロンをかけたリツが、キッチンのある方から顔を出す。
「リツ、ただいま。今日はカレー?」
「えっそうだけど、なんで分かったの?」
さも不思議そうな顔をしてくるので、私は苦笑気味に「なんでって……カレーの匂いするもの」と返した。
「あー、そっか。なるほどね。
今日ちょっと帰り遅くなってさ、まだ少しかかりそう。でも、お母さん支度済ませたくらいには出来ると思うから」
「うん。いいのよ、ありがとね」
リツは芯のある娘だけど、今のようにどこか天然さん。たまにそこが心配になる。
でも、学業や部活動をはじめ身の回りのことも、ちゃんとできるしっかり者でもある。家事も中学生の時からずっと、こうしてこなしてくれている。
だからリツに限ってあんな話……本当であるわけがない。そう思いたい自分がいた。
でも、もし本当だとしたら……どうしよう――
その後、リツが作ってくれたカレーとサラダを前に、リビングのテレビは奇しくも私の近々における懸念事項を映し出した。
背広のキャスターが眉間に影を落とし言う。
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