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そして杞憂に終わったこの状況で出てくる言葉は無く、出たのは安堵と後悔と少しの恥ずかしさが入り混じった深いため息だけだった――
その後、リツの勧めで三人で食事をした。私はそこで、リツがしたいのなら連絡取ってもいいし会ってもいいと許可を出した。
それにしても母と娘と、元夫で食事だなんて。誰かに言ったら笑われそう。
やがてタカユキとわかれ、すっかり暗くなった繁華街の道をリツと二人で歩いていると、何気ないトーンで思わぬ言葉がかかる。
「そう言えばさ、お母さん。なんでお父さんと別れたの?」
「それは……まぁ、いろいろあるのよ。一緒に暮らすと。こうして他人として接するのとは違くてね」
「ふーん……」
「……リツが小さい頃、家によく誰か来てたでしょ」
「うん、そうだね。賑やかな記憶はあるかなぁ」
「お父さんは、人付き合いが上手でね。公私とも、いろんな人と繋がってたの。だからいろいろ助かったこともこれまであった。でもね……助かることだけじゃない。
あと単純に、私は三人の時間が欲しかったのよ。でもあの人は誰かとの付き合いを優先した。話し合うことすらもできなかった。
家に誰か招かれたら、私もそれに合わせて粗相ないように付き合うわけで。どこかに招かれればそれ相応に段取りをして……そういうのに、ある日プツッとね」
「お母さん、気遣い屋だもんな。分かる気がする」
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