どき、どき、どき。

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「あのさ、兄ちゃん……相談したいことが、あるんだけど」 「んん?」  僕は、ありあとのことを話した。  いいところのお嬢様で、クラスで一番可愛くて、クラス委員長でみんなの人気者。そんな彼女に、ついつい恋をしてしまったこと。  勇気を出して告白したら、今度からは手紙を持って来いと言われたこと。  それ以来、何度も何度も手紙を書きなおしているものの、想いが伝わらないと言われて却下され続けているということ――。 「うわあ」  それを聞いて、兄は苦い顔をした。 「なかなか性格悪いな、その女。やめといた方がいいんじゃねえの」 「……僕もちょっとそう思う」  なんともストレートな感想である。まあ実際、僕が第三者だったらきっと同じアドバイスをしただろう。僕のことが嫌いなら即座に“ごめんなさい”と言ってくれればいいのに、彼女は“想いが伝わらないからやり直して”というのだ。結局、彼女自身の本心がまったくわからない。おかげで、僕は諦めることができずに手紙を何度も書き直す羽目になっているのである。 「でも、その……ありあちゃんなりのツンデレ?なのかもしれないとは思ってて。僕がどれくらい本気なのか試したいんじゃないかって。それこそ、ここで諦める程度の気持ちの男と付き合うわけにはいかない……とか。ほら、ありあちゃん、銀行の頭取?とかいう人のお孫さんだし」 「そりゃまあ、わからなくもないけど。……小学生だぞ?」 「小学生でも、真剣にはなるんだよ。……僕だって、真剣なんだから」 「あ、うん……そりゃ、悪かった」  翔也に悪気がないことはわかっているので、特に気分を害するということはなかった。別にいいよ、と僕は告げると、破られてしまった手紙を彼に渡す。今日はまっぷたつに裂かれるだけで済んだので、拾ってくるのは難しくなかったのである。 「これ、読んでみてもらっていい?どこが駄目なのかアドバイスしてほしいんだ。まっぷたつだから、その、読みづらいと思うけど」  兄はそっと手紙を拾い上げると(ありあよりもよほど優しい手つきだった)二つにくっつけて、上からじっくりと読み始めた。  そして、暫くの後。 「……訊きたいんだけどさ、翔太。その究極のツンデレ女のどこがいいんだ?」
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