下駄箱のラブソング

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 ベタな表現をするならば、目の前に薔薇の花びらでも散ったかのような感覚。一気にテンションがマックスに上がった。非常にシンプルな文面だが、それでもラブレターであるのは間違いない。屋上で待っている、と言っている。時刻指定などはないが、ほぼ間違いなく“今日の放課後”のことだろう。なんせ、朝登校した時にはこんな手紙などなかったのだから。 ――は、早く行かなくちゃ。もう待ってるかもしれないし……!  一人で百面相していた、まさにその時だ。 「おい」 「!?」  待て。何で今、すぐ耳元であの“おい”が聞こえるのだ。私は恐る恐る振り向いた。そして。 ――何で今、あんたがそこにいんの!?  ぎょっとした瞬間、私の手元からすすりと手紙が抜けた。やばいと思った時にはもう、封筒ごとチーくんに渡ってしまっている。 「あ、ちょ、チーくん!返しなよそれっ!」 「ふーん、北島からラブレター?」 「わ、わ、悪い!?あんたには関係ないでしょーが!」  何でよりにもよって、チーくんに見られるのだろう。絶対からかわれるし、明日から笑いものにされるのが見えている。というか、北島君にも迷惑をかけてしまうだろう。手紙を貰って目を輝かせた瞬間も見られたのだろうか。というか、一体いつからそこにいたのだろう。同じクラスだし下駄箱もすぐ近くにあるのだから、彼が来ることそのものはなんらおかしくないのだが――。 「お前これ、北島からじゃねーぞ」 「え」  てっきり、馬鹿にされるとばかり思っていたのに。手紙を見たチーくんは、いつもと違って真剣そのものの顔をしていた。 「落ち着いて考えてみろって。お前の下駄箱、一番上じゃん。俺でも手が届かないのに、クラスで前から三番目の北島が手紙なんか入れられるわけないだろ」 「……あ」  私は固まった。言われてみれば、その通りだ。北島君は性格は大人っぽいし落ち着いているけれど、背は大きくない。私の下駄箱に手紙を入れるのは相当厳しいだろう。この下駄箱には、踏み台の類もないのだ。下の下駄箱に足をかければ手紙を入れることもできなくはないだろうが――あの北島君がそんな品のないことをするとも思えない。  別の人に頼んで入れ貰う?それもないだろう。ラブレターを誰かに頼むような度胸があるくらいなら、もう直接呼び出してしまえばいいだけなのだから。 「……な、何よ。私がラブレター貰ったのが気に食わないからって」
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