Just only you

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 彼に気づいたのは何時だったのだろうか。前期末試験の準備のため資料を探していた頃だった。とある週の金曜日の二限目と三限目の間、昼休み。偶然、図書館で彼を見かけたのが初めての出会いだった。  その時はちょっと素敵な人だと思う程度だった。案の定、夏休みに入るとすっかり忘れ去っていた。ところが、後期が始まり再び彼を見かけるようになると、胸がときめくようになっていた。  それからというもの、まるでストーカーのように彼の一挙一動が気なって、今では用もないのに図書館に通っている。  成都大学一年の私、藤澤伊織(ふじさわいおり)は今日もまた二時限目が終わると、昼食も取らずに図書館へと向かうのであった。決して話しかけず、ただ金曜日の彼を見つめるためだけに。 「……良かった、今日も間に合った」  毎週金曜日の同じ時間、同じ席に座る彼に会う、いや訂正。見つめるための至福のひと時。  彼が座るのは図書館の奥側にあるY三〇〇社会科学・政治コーナーの三列机の窓側の席だ。私は彼の席からちょうど死角になるY三一五行政・政治コーナーのテーブル席を陣取り、息を潜めじっと観察している。
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