Just only you

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「とっくに気づいていたけれど、伊織の方から話してくれるのを待っていたのよ」  それなのに、一向に打ち明ける気配がないのでしびれを切らしたそうだ。 「それで、あのイケメンはどこの誰? もう声はかけたの?」  ただ一度だけ偶然にも狭い本棚の間をすれ違う様に、「失礼します」と声をかけたことならある。そして、彼が「あ、すみません」と答え体を引いてくれた。  それが会話といえるならば、言葉を交わした仲だ。でも、それはお互いに人として当たり前の行為をしただけで、色気も何もないやり取りに過ぎなかった。 「そ、それが……学部も学年も、名前さえ知らないの。だから、私から声なんて、声なんてかけられるわけがないでしょう」  そんなこととっくにできていたら、ストーカーまがいの行為はしていない。 「そうだよねぇ。人見知りの伊織がおいそれと、しかも男に声なんてかけられるわけないわよね」  そして、金曜日の彼のことも誰にも言わず内緒にしていた。
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