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「犯人は現場に戻るか……」
これは刑事ドラマでよく耳にする台詞だ。でも、殺害現場に足を踏み入れるのは些か勇気が必要だった。
久瑠未を誘って現場検証するつもりでいたが、急用ができたと断られてしまった。
「でも、久瑠未がいなくてちょうど良かったかもしれない」
来週から後期試験も始まるし、さっきの警備員の証言も大いに気になる。一人になってじっくり考えてみたかったのだ。
どうして杉野由依は受け取った腕時計を、遺失物台帳に記載しなかったのか。
「はぁ、さっぱり訳がわからない」
今まで数回しか来たことがなかったが、講堂の裏庭にはベンチやテーブルが置いてありピクニック気分を味わえる。
意気込んで犯人捜しに手を上げたものの、事件解決に近づくにつれ嫌な予感がして及び腰になっている。
一人ベンチに座っていると、思わずため息が出る。
「……静かだなぁ」
緑の木々に囲まれた築百年以上の煉瓦作りの講堂。辺りは静寂に包まれていて、まるで別世界にいるようだ。
「素敵。大輔さんと一緒だったら、きっと楽しいだろうなぁ」
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