第十二話 野生の危機

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 棚から袋と同じ服の一式を取り出すと、立珂は一人で着替え始めた。前までは薄珂がやっていた着替えも今ではすっかり一人でできるので、それを眺めるのが薄珂の新しい日課だ。一生懸命体をよじる様子さえも愛おしい。 「おきがえおわり!」 「立珂は黄色が似合うな。今日も可愛いぞ!」 「薄珂もおきがえだよ。おそろいの赤いのにしようよ」 「もちろんだ。俺は立珂とお揃いじゃなきゃ嫌だ」 「僕もだよ!」  立珂はたくさんの服を作ったがどれも薄珂の分を作っている。何でも薄珂とお揃いにするのが大好きな立珂のこだわりだ。立珂お手製の服に身を包めるのは最近の新たな幸せの一つだ。  薄珂が着替え終わると立珂は両手を広げ、いつも通り抱きあげる。着替えを服に奪われたのは悔しいが、家の中を歩く時だけは薄珂のものだ。森にいたころより体重が増えたのを実感できる幸せの一時だ。  にこにこの立珂を抱いて居間へ行くと、慶都が長老から借りた絵本を読んでいた。意外と慶都一家は勤勉で、立珂が寝ている時は両親に勉強を習っている。人里であれば学舎に通うだろうが里では親が教えるしかない。そのため勉強時間があり、立珂が起きてくるまでは本を読んでる事が多い。引っ越して来た当初は薄珂と立珂の部屋で立珂が起きるのを待機していることもあったが、落ち着かないから止めなさいと母に窘められてから起きてくるのをじっと待つようになった。それ以来、薄珂と立珂が二人で過ごす時間を大切にしてくれている。けれどその分起きた時の反応は大きい。 「立珂おはよう!」 「おはよう!」  立珂を床に降ろすと、慶都はどんっと立珂に飛びついた。まだ半ば立珂を抱いていたので、三人で団子のようになってしまった。 「これみて! 薫衣草袋作ったの!」 「伽耶にもらった花だよな。花持ってる立珂も可愛いかったのに」 「んふふ~。でもこの方が服汚れないからいいの」  立珂は薫衣草袋に頬ずりをするが、慶都はどこか不満げだ。薄珂もだが、慶都もお洒落談義はできないようだった。お洒落に聞かざる立珂を褒める勢いは客家にも負けないが、形状や色の話になるときょとんと首を傾げる。そんな慶都にとっては袋が増えるよりも花で彩られた立珂の方が好ましいようだ。  膝の上できゃっきゃとじゃれる二人を眺めていると、やけに家の中が静かな事に気が付いた。きょろきょろと辺りを見回すが慶都の両親の姿が無い。
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