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3.先生
――チリン
『間もなく―○○駅ー○○駅に到着いたします。』
「…ん?」
独特の揺れとアナウンスで意識が浮上する。私は聞きなれた駅名に飛び起きた。
「やば!乗り過ごす!」
完全に覚醒した時には既にドアは開いていて慌てて駆け下りる。ホームに足を付けた瞬間後ろでドアが閉まった音がした。
「はっーー。セーフ…。」
昨日は夜更かししなかったけどなと、思いながら誰もいない駅をくぐり抜ける。郊外の少し古びた町だが、私はこの町が好きだ。自分の身長ほどあるキャンバスを抱え直し、伸びをする。春も終わる頃だと思うのにまだ暑いとは感じられない空気だ。
「いい天気…。よし、行こう。」
周りに誰も居なくなると独り言をつぶやいてしまうのは私の悪い癖である。聞かれてしまっては恥ずかしいので早々に直したいところだ。
駅前の賑わう街中を抜け閑静な商店街に入る。脇道に逸れれば静かな住宅地の間を歩く。入り組んだ道のりを歩けば古いアパートと、アニメに出てきそうな空き地に挟まれた小さな一軒家が見える。今日はここに用があるのだ。
北側に出入口があるせいで日陰になっているこれまた古い扉。インターホンを鳴らすが奥に人の気配はない。
「はぁ。まったく。」
どうせまた奥の部屋にいて聞こえていないのだろう。「鍵開けに行くのめんどくさいから」ともらった合鍵で扉を開く。この家の家主は随分面倒くさがりなのだ。
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