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1.少女
〇
「馬鹿だろう、私は。」
ようやく肌寒さを感じなくなってきた春の陽気のなか、木漏れ日が散りばめられた小道に立ち尽くす私は随分大きなひとりごとを呟いた。今この瞬間だけを見れば柔らかい日差しに包まれながら歩くただの散歩中の人に見えるかもしれない。だが現実は優しくない。齢17にして迷子である。気持ちいい天気に気分も舞い上がり、普段と違う帰り道を行くまでは良かった。しかし某アニメに出てきそうな脇道を見つけてしまいとくに深く考えずに進んでしまった数十分前の自分が恨めしくて仕方ない。帰り道を探そうにも古い携帯は急に電源が落ちた後うんともすんとも言わず、来た道を引き返そうにもどんどん木々は深まるばかりで見覚えのある道には出れそうもない。
(これはもしや、迷子というより遭難では…?)
不穏なことを考えながらまだ日が高いことを確認する。何かの本で遭難した時は太陽を見よというのを読んだ記憶を引っ張り出す。現時点での東西南北は分かるが、なんせ自分がどの方角から来たのかすら分からないのでは意味がないと気づき早々に諦めた。地頭はいいがどこか残念と言われる所以である。
「仕方がない。舗装はされてないけどここ一応道っぽいし、歩けばどこかにでるだろう。」
なにせ、朝から続くテンションがまだ続いている。いつものネガティブ思考は息を潜み、自分でも驚くほど前向きな考えを口にした。
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