20人が本棚に入れています
本棚に追加
風の音と蝉の声
「待ってたんだからね」うつむいた目に、大きな絆創膏が貼られた汐里の膝小僧が見えた。ケガしたのかな? 心配だったけど、僕は憤然と背中を向けて小石を蹴った。狙いが外れて左に曲がった小石は、コツンと小さな音を立てて転んだ。
僕は待ってたんだ。そんな膝なんていっぱいケガをすればいいんだ。
仲良しの敬太は、家族でおばあちゃんの家に行ってしまった。お祭りには僕をイジメる奴らもくるから、それを心配する姉の汐里が一緒に来てくれる約束だったのだ。
お父さんとお母さんが学校に相談に行くけど、ふざけているだけだとそいつらは言ってるらしく、ぜんぜん解決しない。靴を隠されたり、誰もいないところで突き飛ばされたりするけど、叩かれるわけじゃないから証拠もない。
ごめんねという言葉をもう一度期待したけど、声は聞こえてこなかった。耳を澄ませたけど、聞こえてこない。耳に届くのはセミの声と風の音だけ。
許せない気持ちと心配なのとが入り混じったまま、僕はゆっくり振り向いた。できるだけ怒っているように見える顔で。でもそこには誰もいなかった。
「汐里?」声を運ぶみたいに風が吹いた。
「汐里……」もう一度呼んでみた。
最初のコメントを投稿しよう!