手をつなぐ

1/1
前へ
/7ページ
次へ

手をつなぐ

「やーい泣き虫」鳥居の後ろから顔を出した汐里(しおり)は、目の下に当てた両手の人差し指をシャカシャカ動かしている。上目遣いで。 「泣いてない!」さっきまでの不安な思いはすっかり忘れて、僕は口を尖らせた。  右手を出しながら歩いてくる汐里が、泣き虫、とまた言ってふわりと笑った。 dcf8cef1-7226-4e7a-9255-9b43f240d77f 「恥ずかしいって」  小学五年生にもなって姉ちゃんと手なんてつなげない。そんな僕の気持ちは無視されて強引に手をつかまれた。 「ケガ……したの?」 「なに?」 「ひざ」照れ隠しの質問をして、僕は汐里の膝を指さした。 「あぁ、ちょっと擦りむいただけ。ご機嫌は直ったの? 昨日からずっとすねてるなんて男らしくないぞ」  つないだ手をグイと押されてよろけた。おら、おら。十センチ以上も背の高い汐里(しおり)には力でまだ勝てない。いまに見てろよ。力を込めて握ったら、握り返されて痛かった。 「だから明日は、ほら海に行く約束でしょう。お父さんとお母さんも楽しみにしてるから。翔ちゃんのためにあたしも行くんだからね。どっちかって言えば、お父さんやお母さんといるより、友だちと遊んでた方が楽しいんだからね」  そうか、僕のために汐里は一緒に行ってくれるんだ。 「ゴメン」 「あ、冗談、冗談、エアジョーダン。あたしも翔吾と行きたいの。今年はふたりともまっくろけになるんだからね」  こ、これは……ぜんぜんおもしろくないけど、女子中学生のすべり芸なんだろうか? 「……うん」  汐里の手は柔らかかったけど、強い陽射しの中でじんわりと汗をかいた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加