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手をつなぐ
「やーい泣き虫」鳥居の後ろから顔を出した汐里は、目の下に当てた両手の人差し指をシャカシャカ動かしている。上目遣いで。
「泣いてない!」さっきまでの不安な思いはすっかり忘れて、僕は口を尖らせた。
右手を出しながら歩いてくる汐里が、泣き虫、とまた言ってふわりと笑った。
「恥ずかしいって」
小学五年生にもなって姉ちゃんと手なんてつなげない。そんな僕の気持ちは無視されて強引に手をつかまれた。
「ケガ……したの?」
「なに?」
「ひざ」照れ隠しの質問をして、僕は汐里の膝を指さした。
「あぁ、ちょっと擦りむいただけ。ご機嫌は直ったの? 昨日からずっとすねてるなんて男らしくないぞ」
つないだ手をグイと押されてよろけた。おら、おら。十センチ以上も背の高い汐里には力でまだ勝てない。いまに見てろよ。力を込めて握ったら、握り返されて痛かった。
「だから明日は、ほら海に行く約束でしょう。お父さんとお母さんも楽しみにしてるから。翔ちゃんのためにあたしも行くんだからね。どっちかって言えば、お父さんやお母さんといるより、友だちと遊んでた方が楽しいんだからね」
そうか、僕のために汐里は一緒に行ってくれるんだ。
「ゴメン」
「あ、冗談、冗談、エアジョーダン。あたしも翔吾と行きたいの。今年はふたりともまっくろけになるんだからね」
こ、これは……ぜんぜんおもしろくないけど、女子中学生のすべり芸なんだろうか?
「……うん」
汐里の手は柔らかかったけど、強い陽射しの中でじんわりと汗をかいた。
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