記憶

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「ノ、ノエル…?」 「…はい?」  彼が声にしたのは、私の前世の名前だった。私は困惑しながらも一応返事をする。 「……ノエル!」  ガバッ 「ひぇっ!?」  突然の出来事だった。  彼がパッと顔を輝かせたかと思うと、彼は私に飛びつき、抱き締めた。私は恥ずかしさやらなんやらで短く悲鳴を上げる。顔がみるみるうちに熱くなった。  そんな私達を友人達は驚きながらもどこか生暖かく、ニヤニヤと見ている。  ちょ、助けてよ。このままじゃ私の心臓が爆発する!知花、あんた私が彼を好きなの知っているでしょ!  そんな私の心の中の叫びは当たり前だが彼らに届かず、私はされるがままになった。  しばらくして落ち着いた彼は、私をようやく離した。私はどこか残念に思いながらもほっと息をつき、座り直す。  彼は言った。 「僕の前世の名前はサージュ・サファイア。王子で、君の婚約者だったよ」 「……へ?」  私はポカンと彼の顔を見上げる。 「結局、結婚は出来なかったけどね。…君が僕を庇って死んじゃうから。僕も思わず後を追ったよ」  そう言って私のことを恨みがましそうに睨む彼。  私は前世を思い返す。  ……確かに私は、婚約者であるサージュ様を暗殺者の攻撃から捨て身で庇って、ナイフが心臓に刺さって死んだわ…。  え、後を追っただって…?  私が上手く言葉を呑み込めないでいると、彼はこの変な空気の勢いに任せるようにして言い放った。 「ノエル、いや、月那。僕は君のことを愛しているんだ。前世からずっと。だから、付き合ってくれるかい?」  私はカアアと顔を赤くする。  そして、頷いた。 「はい、サージュ様、ううん、聡太君。私もずっと大好きでした…」  わあっと周りで歓声が上がる。私と彼は、友人達の拍手に包まれながら笑顔で互いを見つめ合った。
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