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深読みしながらいつも以上に真剣に取り組む。この瞬間もチェックが入っているかもしれない。
手を付けた一角の清掃をおおよそ済ませると、サラも作業を中断した。
「ヤマト班長、洗浄液が切れちゃいました」
レバーを下げノズルを握っても空気だけが虚しく飛んでいく。
「1回目はこれで終わりだな。次はサラ隊員がブラシをするか」
「ふっ、ついに私のブラシ捌きを見せる時が来ましたね」
「いや、普通にやってくれればいいから」
膨れっ面のままサラは洗浄液のタンクへと向かう。
適当にあしらったけど、自称プロの実力には興味がある。ためになる技術があれば見て盗んでおこう。
突然無線機が鳴り出したのは、サラが洗浄機を下ろした時だった。
応答ボタンを押して聞こえて来たのはノイズよりも酷い掠れた声。
『あ、ヤマト班長ですか?マークです』
第1班副班長『マーク・ブレット』。生真面目で仕事熱心な1つ歳下の青年だ。
いつもの周囲を元気付ける声は憔悴し、無線機を離し咳き込んでいる。
「流行り風邪をもらったんだろ?熱が引くまで休むって聞いてたけど、大丈夫か?」
『すみません、まだ治ってなくて。作業中申し訳んですが、うちの班長来てます?』
第1班班長『ライアン・デンター』さん。目立つしうるさいから見れば気付くだろうけど、
「今日はまだ見てないな」
地を這うようなため息。無線機を通しても心底呆れているのが伝わってくる。
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