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ー♢ー
脳の奥まで響き渡る警鐘とサイレンの音で目が覚めた。
遠くから豪快な爆発音が轟く。悲鳴は騒ぎに気付いたご近所さんのものだろう。
各家庭に設置されている防災無線が一早く電波を拾い、ノイズ混じりで状況を読み上げる。
『警報レベル1。南東の森より獣型の魔物が出現。第一層の住民は速やかに地下に避難を。二層の住民は避難の準備を開始して下さい』
防音性能もままならない一般アパートの一室。隣の部屋からはドタバタと慌しい足音が聞こえてくる。
「警報レベル1だって言ってんだから、そんなに焦らんでも……」
ここは王都第ニ層居住区。避難準備指示が出ているなら第一層との間にシャッターが降りるだろうし、警報レベル1なら中型以上の有翼種も考え辛い。
十中八九安全だ。俺なら2度寝を決め込んでる。
だけど立場上寝てもいられない。
眠気まなこを擦りながらベットから抜け出し、大きめのカーテンを両側に開く。
眼下遠方に上がる戦火。被害状況の詳細までは分からないけど、王都侵入前に防いでもらえるとありがたい。
きっとあの場では戦闘の先鋭部隊である『騎士団』が派手に剣と魔法を振るっているに違いない。
いや、騎士団には届かなかった『王宮特務隊』の『騎兵部隊』も応戦している。
戦場のサポート、人民の避難に尽力する『誘導部隊』が駆け回り、『医療部隊』も怪我人の応急処置に追われているはずだ。
『警部部隊』も『消防部隊』も。果ては小遣い稼ぎに奔走する荒くれ共も。
あの戦場にはそれぞれの使命を抱き、全員が戦っている。
今すぐ走り出したい気持ちを押さえつけるように、俺は安全な部屋で眠気覚ましの珈琲を啜る。
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