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机に置いてある無線機が紙やすりで擦ったような荒い音を立てた。
『あー、あー、こちら隊長の『バルコス』だよ。起きているかなヤマト班長』
渋いおっさんの声でお茶目にしゃべられるのがかなりきつい。これで目が覚めたら珈琲も喉を通らなかっただろう。
無線機を掴み再度ベットに腰掛け、
「こちら『ヤマト・アズル』。おかげさまで最高の目覚めを堪能してますよ」
『え、俺の声で起きたから?』
素の声に戻っていた。何でちょっと困った風に言ってんだこのおっさん。
「逆っすよ。その前に起きられたからラッキーって言ってんです」
『おーけー。君は寝起きがいいから不機嫌にならなくて助かるよ』
あんたの冗談でだいぶイラッときたけどな。
『早速で悪いが、もう出るぞ。下にも連絡回しとけ』
いきなりの出動命令に眠気が吹き飛んだ。
いつもならシャワーを浴びるくらいの時間はあるのに。いやに早いな。
「魔物の数、そんなに少ないんすか?」
無線機の向こうで隊長は笑った。
『いーや。非番でたまたま王都にいた『七本槍』の1人があらかた片付けたらしい。やっぱりあいつら人間じゃねぇな』
騎士団のトップ。人類最高戦力の7人。そりゃ仕事が早い訳だ。
『そういうことだから直ちに現場に急行。他は素直に起きてくれるとは限らん』
「了解。自分のところは指揮を取って先に進めてます」
無線機を切り、残った珈琲を一気に飲み干す。
その戦場に俺の居場所は無い。
いつだって動き出すのは戦いが終わった後だ。
白の防護服と無線機を持って、俺の仕事が始まる。
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