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悠人は上半身をのけぞらせるが、腰から下はベンチに縄でくくりつけられたように動かない。暗闇で黄色に光る目が不気味だ。
気づくと横で北野が目元に涙を浮かばせ、お腹を抱えて笑っている。
「おもしろー。びっくりしすぎでしょ」
「だって、いきなり、こいつ」
北野はあまり驚いてはいないようだ。それどころ慣れた手つきで黒猫の両脇の下をもって、悠人の膝からどかせた。猫はばんざいをした状態でちゅうぶらりになる。
「この子はね、いろは」
“いろは”と名付けられた猫は、そのまま北野の膝の上に布団でも折りたむように置かれた。普段の定位置なのか、安心しているように見える。今日は餌もってないの、ごめんね~、と北野はあやすようにつぶやいている。
「北野さんちの猫じゃないの?」
「うん、野良猫、だと思う。学校帰りとかたまにみかけるんだ。餌あげてたら懐かれちゃったみたい」
いろははそのまま目を閉じた。眠り始めたのだろう。
北野は優しい手つきで猫の頭をしばらく撫でていた。
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