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風呂を上がり、北野に言われたとおり連絡をいれた。「どうも」と送るとすぐに既読という表示がつき、数秒でメッセージが帰ってくる。
【8/3花火大会ね。他のメンバーは明石くんと村谷くん、それにチカだから】
やりとりのスピード感から、北野に目の前でまくしたてられる錯覚を覚える。
自分の足元に視線を落とす。あれからずっとつけている、ぜんぜんちぎれない丈夫なミサンガ。悠人にとってこれは足枷でもあり、自らを支える重石でもある。
寝転んで天井を眺めると、普段は意識していなかったうねうねした模様が動いているようにみえた。
久しぶりに人と話したからだろうか、妙に今日のやりとりを思い返してしまう。
北野はなぜあそこまで関わろうとしてきたのか、今日びの高校生はあんなものなのか、それとも単に北野が社交性の塊のような人間であるのか。そのどちらとも異なる不思議な勢いがあったように感じた。
「そんなに走るの好きならさ、陸上部入らない?」
今日の北野の言葉が飲み込み切れない魚の骨のように胸につっかえていた。悠人にとって走ることは部活動でやるような溌溂とした爽やかなものではない。走る動作は同じかもしれないが、そこに含蓄されている意味は決定的に違う。そう確かに感じてはいたが、どう違うのか、そもそも部活として走っている人たちがいるのはなぜか、悠人には分からない。
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