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初稿・七飯 由仁 十六歳。人生初の足ドンにより大ピンチ。
「おい」
ドン! という物騒な物音と明らかにお怒りな低音ボイスに顔を上げたら、人相の悪い顔面にド真ん前から睨みつけられているという状況を認識した七飯 由仁は一気に血の気が引いた。
「ひいっ!」
そりゃあ、情けない悲鳴も出ようってものだ。
こういう時は、ひたすら謝るに限る。
「ごめんなさい、ごめんなさい。お金ないです。爆乳も美尻も脚線美もないので売り飛ばすのは勘弁してくださひっ!」
最後で声がひっくり返った。
でも、その方が同情とか、お情けを誘うのではなかろうかと打算して頭を下げ続ける。
「……」
ラッキーなことに、これ以上の恫喝はなかった。
けど、立ち去ってくれる気配もないから、そろっと目線だけ上げてみたら、強面さんは微動だにしていなかった。
それでも、さっきよりは圧が薄れている気がしないでもないような……。
「ソレ、俺のなんだけど」
「それ?」
上から目線が向かっている先には、由仁の手がある。
「……って、このスマホのこと?」
ピンクの柄なしアレンジなしで個性のないカバーがつけられたソレは、ついさっき、由仁が拾った落とし物だ。
え、何?
じゃあ、この人、オラオラな雰囲気にビビらされたけど、ただ、スマホを返してほしかっただけってこと??
「あのぅ、一応、念のために確認したいんですけど、ひん剥いたり、売り飛ばしたりする予定は?」
「あるわけないだろ。そんな闇ルート知らねえし」
見るからに呆れた様子のわりには、ノリのいい返しをしてくれたので、今度こそ、被害者妄想が逞しすぎた早とちりだと納得して申し訳なくなる。
それにしたって、足ドンはないだろうとは思うけど。
壁ドンされても嫌だけど、足ってなんだ、足って。
だいたい、自分の顔面力をしっかり自覚しておいてほしい。
こっちだって、泥棒しようと悪巧みして拾ったわけじゃなく、素直に、落とし主は困っているだろうなと親切心で拾っただけなのだから。
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