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第三稿・絵師さんのいらっしゃい
未公開、非公開、特別編集やディレクターズ・カット版というワードは卑怯だと思う由仁だ。
未公開イラストを見せてもらえる、なんて条件を出されたら、ファンとしては頷かないわけにもいかない。
というわけで――
「よ、お待たせ」
せっかくの日曜日なのに由仁は朝の内から起き出して、前日から用意していた女の子女の子していない服に着替えて、途中で駅前のパン屋さんに寄ってお土産を用意して待ち合わせ場所に立ち、只今、約束の時間ジャストに枝幸が登場したところだ。
今日も今日とて、初めて会った時の髑髏ジャンパーでヤンキー感が半端ない。
中身は、まるっきり違うのだけど。
はっ、もしや、趣味が合った友人だというのなら、紹介される絵師とはバリバリのヤンキーなのでは?
「何、どうかした」
「なななんでもない。なんでもなーい」
「?」
ここに来て、由仁の遠慮しいな控えめの性格が災いして、絵師がどんな人物なのかを聞いていなかった痛恨のミスが発覚した。
だからって、今更、聞いてみたところで怖じ気づきそうなだけなので、愛想の仮面をぺっとり張りつけて乗りきって見せようじゃないか。
「んじゃ、案内するから」
てくてくと静かな住宅街を並んで歩く。
なんか変な感じ。
なんたって、わざわざ休日に待ち合わせて、見知らぬ人のお宅を訪問しようっていうのだから。
しかも、お供が見た目ヤンキー風味の中身は文学少年。
冷静に考えるたら気詰まりでしかないのだけど、口にしたら、もっと微妙な空気になりそうだから、地上最高に当たり障りのない天気の話題を出して間を持たせてみたり。
けど、まあ、案内人の方は、なんにも感じてないっぽい。
作家じゃない由仁の方が、よっぽど繊細じゃないかと思いつつも、大人しくついていった。
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