0人が本棚に入れています
本棚に追加
「ちゃんと見たって、すごいって。本棚の数だって三桁入りだよ。もっと自慢していいのに」
「ぜっんぜん、すごかない。そりぁ、付き合ってくれてる読者さんはありがたいけど、上位のランキングに入ってるやつは桁が違うから」
「ふーん。でも、私にしたら、これだけでも、充分、すごいなーって思うけど」
「……ちなみにだけど、どこがよかった?」
そっと聞いてきたのに、どこか前のめりな気配がして、由仁が自分のスマホから顔を上げてみると、枝幸には妙な緊張感と真剣みが漂っていた。
「んー。色々あるけど……やっぱ、表紙かな」
正直に答えたら、枝幸はゴツンと、なかなかに大きめな音を立ててテーブルに突っ伏した。
「だよな、知ってた。それ描いたの、俺じゃねえけど」
「あ、やっぱり?」
由仁は薄々わかってて、言ってみていた。
「それな、小・中と一緒だった奴に頼んでんだけど、今んとこ、興味持ってくれるの、ほぼほぼ、ソレのおかげなんだよ。あー、くそ。最初からわかってたけどさ。今度こそって期待した俺が馬鹿でしたーあ」
やけっぱちな勢いで体を起こしたと思ったら、今度は、逆に背もたれに全力でもたれかかって、やさぐれだした。
それはもう、初対面の人間相手に、そこまで全開にするか!? ってドン引きするくらいの拗ねっぷりだ。
「いやさ、普通に察してくれてると思うけど、冗談だからね。ストーリーがよくなきゃ、引き止めてまで続き読みたいって思わないから」
「ふんっ。どーだか」
「本当だってば。展開が早いからサクサク読めるし、ちゃんと作者がキャラを大事にしてる感じがいいなって思って、純粋に面白かったから続きが読みたかったの」
面倒くさい作者だなぁとか残念に思いながらも、由仁は真面目に感想を伝え直した。
「…………」
けど、やけにまじまじと驚いた顔を枝幸に向けられたら、ちょっと力説しすぎたかもと恥ずかしくなって、由仁は肩を竦めた。
でもって、居たたまれなさにポテトでも摘まもうかと伸ばした腕を、向かい側からガシッと掴まれた。
なぜ、ポテトの邪魔をする? と見返してみたら、とんでもないことを告白された。
「惚れた」
「は?」
「だから、俺と付き合ってくれ」
真っ向からの真剣な眼差しに、出会ったばかりで、ぜんっぜん由仁の好みのタイプでもないのに、雰囲気に呑まれて脈がドコドコ速くなる。
「千歳 神威のアドバイザーとして!」
キリッとした顔で、なんか言われた。
「はあ?」
「な、頼む」
なんか知らんけど、腕を解放してくれたかと思えば、次には両手をパンと打って拝んできた。
「はいぃ?」
JAROに通報レベルの紛らわしさに、しっかりと不機嫌が伝わるよう腕を組み、あごを突き出し、おもいっきり蔑んだ眼差しを送り返してやった。
「わ、悪い。実は、話の展開に行き詰まってて、さっきの感想、マジで嬉しかったんだよ。だから、雑談というか、気分転換に付き合ってもらえたらバリバリ書けるんじゃね? って思いついたら、勢いで飛びついちゃったわけで……やっぱ、無理?」
由仁の機嫌を損ねたのが伝わったのだろう枝幸は、気まずげに言い訳をすると、捨て犬のような目で訴えてきた。
卑怯くさい手段に出やがって……。
「はあ。そういうことなら、付き合ってもいーよ」
「ホントか? 後から、やっぱ、なしとか聞かないからな」
「いいよ。やっぱナシは言わない」
「やっふぅー」
なんなんだ、こいつは、と自分の行動を棚に上げてしまった由仁だけれども、ここまで手放しに喜ばれたら悪い気はしない。
というわけで、紙カップのシェイクとコーラで乾杯して、小説家男子と由仁の契約が成立した――までは、よかったのだけれど……。
最初のコメントを投稿しよう!