初稿・七飯 由仁 十六歳。人生初の足ドンにより大ピンチ。

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「ちゃんと見たって、すごいって。本棚の数だって三桁入りだよ。もっと自慢していいのに」 「ぜっんぜん、すごかない。そりぁ、付き合ってくれてる読者さんはありがたいけど、上位のランキングに入ってるやつは桁が違うから」 「ふーん。でも、私にしたら、これだけでも、充分、すごいなーって思うけど」 「……ちなみにだけど、どこがよかった?」 そっと聞いてきたのに、どこか前のめりな気配がして、由仁が自分のスマホから顔を上げてみると、枝幸には妙な緊張感と真剣みが漂っていた。 「んー。色々あるけど……やっぱ、表紙かな」 正直に答えたら、枝幸はゴツンと、なかなかに大きめな音を立ててテーブルに突っ伏した。 「だよな、知ってた。それ描いたの、俺じゃねえけど」 「あ、やっぱり?」 由仁は薄々わかってて、言ってみていた。 「それな、小・中と一緒だった奴に頼んでんだけど、今んとこ、興味持ってくれるの、ほぼほぼ、ソレのおかげなんだよ。あー、くそ。最初からわかってたけどさ。今度こそって期待した俺が馬鹿でしたーあ」 やけっぱちな勢いで体を起こしたと思ったら、今度は、逆に背もたれに全力でもたれかかって、やさぐれだした。 それはもう、初対面の人間相手に、そこまで全開にするか!? ってドン引きするくらいの拗ねっぷりだ。 「いやさ、普通に察してくれてると思うけど、冗談だからね。ストーリーがよくなきゃ、引き止めてまで続き読みたいって思わないから」 「ふんっ。どーだか」 「本当だってば。展開が早いからサクサク読めるし、ちゃんと作者がキャラを大事にしてる感じがいいなって思って、純粋に面白かったから続きが読みたかったの」 面倒くさい作者だなぁとか残念に思いながらも、由仁は真面目に感想を伝え直した。 「…………」 けど、やけにまじまじと驚いた顔を枝幸に向けられたら、ちょっと力説しすぎたかもと恥ずかしくなって、由仁は肩を竦めた。 でもって、居たたまれなさにポテトでも摘まもうかと伸ばした腕を、向かい側からガシッと掴まれた。 なぜ、ポテトの邪魔をする? と見返してみたら、とんでもないことを告白された。 「惚れた」 「は?」 「だから、俺と付き合ってくれ」 真っ向からの真剣な眼差しに、出会ったばかりで、ぜんっぜん由仁の好みのタイプでもないのに、雰囲気に呑まれて脈がドコドコ速くなる。 「千歳 神威のアドバイザーとして!」 キリッとした顔で、なんか言われた。 「はあ?」 「な、頼む」 なんか知らんけど、腕を解放してくれたかと思えば、次には両手をパンと打って拝んできた。 「はいぃ?」 JAROに通報レベルの紛らわしさに、しっかりと不機嫌が伝わるよう腕を組み、あごを突き出し、おもいっきり蔑んだ眼差しを送り返してやった。 「わ、悪い。実は、話の展開に行き詰まってて、さっきの感想、マジで嬉しかったんだよ。だから、雑談というか、気分転換に付き合ってもらえたらバリバリ書けるんじゃね? って思いついたら、勢いで飛びついちゃったわけで……やっぱ、無理?」 由仁の機嫌を損ねたのが伝わったのだろう枝幸は、気まずげに言い訳をすると、捨て犬のような目で訴えてきた。 卑怯くさい手段に出やがって……。 「はあ。そういうことなら、付き合ってもいーよ」 「ホントか? 後から、やっぱ、なしとか聞かないからな」 「いいよ。やっぱナシは言わない」 「やっふぅー」 なんなんだ、こいつは、と自分の行動を棚に上げてしまった由仁だけれども、ここまで手放しに喜ばれたら悪い気はしない。 というわけで、紙カップのシェイクとコーラで乾杯して、小説家男子と由仁の契約が成立した――までは、よかったのだけれど……。
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