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「はあ。わかってくれたんなら、まあいいよ。少女マンガのヒロイン気分でも味わえたことにしとくから」
「……」
「何?」
「いや、別に……」
とか否定しながらも、枝幸は空いている手を首にやったり、ボケットを触ってみたりと、明らかにソワソワしている。
「ね、もしかしてだけど、今のネタになるかもだから、メモっとこうとか思ってる?」
指摘してみると、面白いくらいギクッと動揺してくれたけど、由仁としては当たってたことに、びっくりだ。
「お、怒った?」
「怒んないよ、それくらいで。そういう契約したわけだし。でも、メモするほどのことでもなくない?」
「あー……なんつーか、変なこと言うようだけど、俺、幼稚園とか小学校入学したくらいまで、かなりのモテキャラだったんだよ」
「うん、そんな気はしてた」
「う゛。ま、ともかく、親とかご近所さんとかに白シャツで膝丈パンツが似合うから王子様みたいとか言われてて、俺も俺でガキだったから、ちやほやされてる内に自分でも信じ込んじゃってさ。でも、小学校でクラスの女子に怒られたんだよ。『王子様は、そんなことしないんだよ!』って。なんでか言われたのかは覚えてないんだけど、決めつけられたことにムカついて、それで初めて気がついたんだ。だったら、俺は、ぜんぜん王子じゃないやって」
「ふうん。それで?」
いきなりモテ自慢を絡めた身の上話をされても、由仁の機嫌はやや下がりしただけだ。
「あ、いや、そん時に王子キャラ捨ててから、あんまし女子の心理とか考えなかったというか、あえて気にしないようにしてきたわけで……だから、女子目線の意見って、俺にとっては貴重なんです、ってことを言いたかったわけで……」
両手の指をもじもじしながら言い訳してきた枝幸は、なんのお詫びのつもりか、外階段の踊り場で、マイバッグから本当におにぎりと焼き鳥の串を分けてくれた。
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