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「よ、お待たせ。今週、掃除当番だから、やっぱ、微妙に遅れるわ」
正式な待ち合わせ時間があるわけでもないのに、枝幸は無意味に気を使ってくれるので由仁は反応に困る。
「別に、急ぐ必要ないよね」
あれから、ほぼ毎日、放課後に集まってはだべっているのだから。
ちなみに、昼休みは落ち着かないのでスルーさせてもらうことにした。
どっちも帰宅部なので、その方が気楽に集まれた。
「時間は有限、締め切りは厳守!」
そんな、ぐうっと拳を握って力まれてもね。
「もっと意味わかんないから。てか、唄ドラに締め切りなんてないよね」
「ないけど、もうちょっと形になったら、公式で募集要項の合うコンテストに応募してみるつもりではいる……」
「やっぱ、プロ志望なんだ」
「なんだよ、夢見てるって言いたいんだろ」
「拗ねないでよ。むしろ、羨ましいって思ってるんだから。昨日、二章の後半に入ったんだけど、やっぱクロムいいよね。ど真ん中すぎるラックに、シリアスな緊迫感でパンドラの箱に残った希望の意味を突きつけるとこ。それまでクロムって、がさつで楽観的な大人って感じだったのに、急に闇とか過去をちらつかせて突き放すとか憎い演出だよね。なのに、いざ、ラックがピンチになったら、真っ先に助けに行っちゃうクロムウェルがよかった。ラックにとったら、箱の底に残っていた希望ってクロムなのかもって感じにも読めて。でも、これからの展開で、それが幸か不幸のどちらに繋がっているのかわからないって匂わせが色々想像させるよね」
感想を述べた由仁が、もったいないけど早く読み進めたいと悩んでいたら、枝幸が両手で顔を覆って身悶えていた。
「枝幸さん?」
「なんだよ、それ。褒め殺しすぎるだろ。七飯は俺をどうしてくれんだ」
「そんなこと言われても、どうもしないから。普通に作品の感想を言っただけだし。てか、作品は褒めても、枝幸君を褒めたつもりはありません」
「う゛……冷静に事実を言わないでくれ。それはそれで傷つくから」
「もー、面倒くさいな」
「当然だろう。作家になろうって奴は、大胆かつ繊細な人間に決まってんだろが」
「それは、ますます面倒くさい」
「このやろう」
「あ、あと、誤字脱字が二ヶ所あったから、ペコメで通報しといた」
「え、マジで? すまん、確認する」
すぐさまスマホを取り出した枝幸は、かこかこと確認を始めた。
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