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「なあ、前から思ってたんだけど、七飯も、なんか書いてみたら」
「ええー、私が?」
「文章力あるし、誤字脱字チェックもしてくれてるし、絶対、素質はあると思う」
「無理だって。私、普段、小説とかぜんぜん読まないもん」
「……はあっ?? マジで言ってんの!?」
正直に答えたら、欄干にもたれていた枝幸には、体を勢いよく捻って振り向かれるという過剰な反応をされた。
「うーわー、おもっくそ騙された。絶対にヘビーな読書家だって信じてたのに。したら、その内、本の貸し借りもできるかもって楽しみにしてたのに、あんまりだろ!?」
なんだろう。
この、ひとっつも悪くない由仁の方が謝らなくてはならない空気は。
「唄ドラは、なんとなく気になるって感覚で読めたんだけど、普通は文字だけだと勉強って感じがして苦手なんだよ。マンガだったら読むし、持ってるから貸せるけど」
「ああ、なんだ。そっち派ってだけか」
なんか知らないけど、唐突にご乱心は鎮まったらしい。
「そっち派って?」
「マンガは読むんだろ。物語とか創作物に興味うっすい奴の感想に刺激されて感激したとか思ったら、めっさグレそうな気分だったんだけど、そうじゃないならいいや」
「さいですか……」
もう何度目かの面倒くささを感じながら、由仁は自分のスマホの唄ドラ画面を閉じたと同時に、枝幸のスマホがピロリンと鳴った。
「だーれだ……って、はあっ!? 何言ってんだよ。無理に決まってんだろ。つーか、なんで、俺が言うこと聞かなきゃなんねーんだよ」
推理するに、何かを頼まれたらしいのだけど、難しいことらしい。
しばらく画面で言い合いをしているっぽいなぁと由仁は気になりつつも、人様のやりとりに興味津々なのもどうかと、見えない振りをして今月発売の新刊をチェックしておこうかと思っていたら、枝幸に呼びかけられて向き直った。
「あーのさ、そのぅ、なんつーか? たいしたことではないんだけども、ほんと、嫌だったら、即行で断ってくれてもいいんだけどさ……」
枝幸は歯切れが悪すぎる上に、可愛くない男子にもじもじされても由仁はイラっとするだけだ。
「言うなら、はっきり言う!」
「わ、わかった。言う。次の日曜日、空いてませんか。空いてるなら、家に遊びに来てくれませんか!」
「はい?」
いきなり家とかありえる??
もちろん、変な意味じゃないのはわかるけど。
「その日、誰もいないって言うし、お菓子もジュースも用意しとくからって言ってきてるから、悪いんだけど、ちょっとでいいから付き合ってもらえないか」
「……ん? それって、もしかして、枝幸君が誰かに頼まれたってこと?」
「そうっ、それ!」
おい、こら。
いつ・どこで・誰がどうしたは、説明の基本でしょうが。
「いや、だから、相手は誰さ」
「唄ドラのイラスト担当してくれてる奴。小中と一緒のクラスの時に趣味が合って、今も連絡取り合ってる。てか、最近は唄ドラ関係で必然的にって感じだけど」
「だから、私のこと話しちゃったの?」
「そういうことです。というよりは、話さないではいられなかったと言いますか……」
「ふうぅん。で、興味持たれちゃったってわけですか」
「すまんっ、ごめん。本気で嫌だったら断ってくれていいから。あ、でも、来てくれるなら、唄ドラの未公開設定イラストを披露するって言ってんだけど」
なんですと!?
「ぐぬぬぬぬぅ」
唸る以外に、由仁にできることがあろうか。
いや、ない。
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