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泣き女
短い話だけど聞いて欲しい。
俺の友人にMという女の子がいるんだが、そいつはかなりの霊感体質で、以前その子を含めて友達四人と肝試しに行ったんだ。
場所はK市にある旧Tトンネルという、地元では有名な心霊スポットで、入口がガードレールで封鎖されている場所。
ガードレールには白い花瓶と花が添えられており、中も壁が剥がれ落ちたり落書きなどがされていて、途中まで行くと急に手彫りのトンネルに変わっていく不気味な場所だった。
その時点で雰囲気はかなりやばい。
正直もう帰りたかったが、友人達の手前そういう訳にもいかず、内心ビビりながら出口の方に進んでいくと、突然Mが急に立ち止まった。
「ど、どうしたM?」
俺が慌てて声を掛けると、Mは上擦った声で返事を返してきた。
「お、女の人がさっきから声掛けて来てる……」
それを聞いて俺達はマジでビビってしまった。
皆やめろよとか、そういうのいいってと怖がって悪態をついたが、俺はとにかく心配だったのでMに尋ねた。
「な、何て言われてるんだ?」
「こ、ここで襲われたって、何でお前は生きてるんだって」
それを聞いて俺は絶句してしまった。
Mとは長い付き合いで家族の事も知っている仲、その家族からも、Mのこの霊感体質の事を聞かされていた。
実はこういう場所には余り連れていかないでくれとも言われた事もあったが、話半分にしか聞いてなかった俺は、この現状を見て激しく後悔してしまった。
「と、とりあえず皆もう帰ろうぜ、M歩けるか?」
するとMは不安そうにしながら頷き返してきた。
流石に見守っていた他の奴らもこれ以上は無理そうだと思ったのか、俺達は車に戻り帰宅する事となった。
Mは一人暮らしなため、彼女の家の前に着くと、俺は今日は一人で大丈夫かと聞いた。
するとMは。
「実は今彼氏と喧嘩中でさ、その事でもうちょっとしたら話し合う事になってて……」
「ま、まじか、上手くいくといいな」
「うん……ありがとう、またね皆」
Mがそう言って手を振ってきたので、俺達も手を振り返し、そこでMと別れた。
その後、俺は自分の家に戻り、残り三人の友達と宅飲みでもするかと言うことになった。
暫く呑みながら時間を潰していると、急に着信が鳴った。
Mからだ。
「どうしたM?」
しかしMから返事はない。
すると。
「ひっく……ひっく……」
泣き声だ。
「どうした?」
その場にいた友人が聞いてきたので、俺はMが泣いているようだと説明した。
「彼氏と別れたのかな?」
「ああ、喧嘩中って言ってたな」
「慰めてやれよ」
「分かってるよ……もしもしM?」
「ひっく……ひっく……」
Mは返事も返さずただひたすら泣いている。
余程酷い喧嘩別れをしてしまったようだ。
俺はいたたまれなくなり、彼女が泣き止むのを待つ事にした。
しかし泣き声は一向に止む気配がない。
流石に長いなと思った俺は通話口に向かって口を開いた、だがその瞬間。
「あ、ごめんごめん通話になってた!もしもし?」
通話になってた?どういう事だ?混乱しそうになったが俺は自分を落ち着かせ再度口を開いた。
「え?え?あ、いや、さっき電話かかってきてMずっと泣いてたよな?彼氏となんかあったんじゃないかって俺達さっきから心配してたんだけど……」
「えっ?彼氏と?電話で仲直りしたよ~?泣くとか、むしろ今超機嫌いいんだけど」
Mの嬉しそうな声が通話口から聴こえてくる。
「いや、お前ずっと泣いてたよ……」
「ええ~泣いてないよ~あっ!」
通話口から突然インターホンの呼び鈴が聞こえてきた。
「ごめん彼氏が来たみたい、切るね、また今度ね」
「え?あ、ちょM!」
通話が切れた。
「おい、M何て言ってた?」
「いや、泣いてないって……彼氏とも仲直りして、今家に来たって……」
「え今?夜中の三時だぞ?」
「あ、ああ……俺も意味がわかんねえ……」
結局何も分からないまま、その日は解散となった。
その後Mから連絡も一切なく、俺からも連絡をとったが一向に返事もないまま数日が経った。
そんなある日の事、あの時一緒に心霊スポットに行った友人から電話が来た。
「もしもし?」
「ひっく……ひっく……」
女の泣き声……。
俺はギョッとして思わず携帯を床に落としそうになった。
「えっ?おおおい、だ、誰だよ?」
携帯の画面を見て名前を確認するが友人からの通話で間違いない。
けれど友人は男だ。
なぜ女の声……。
「ひっく……ひっく……」
女の悲痛な泣き声が通話口から響いてくる。
「も、もしもし!?」
俺は混乱して怒鳴るように再度聞き返してしまった。
すると。
「ああ、もしもし聴こえる?」
友人の声だ。
「もしもしじゃねえよ!何なんだよ一体!」
「な、何だよ急に、いや、実は今彼女と喧嘩中でさ」
「け、喧嘩中?何だよ焦らせんなよ!」
どうもさっきの泣き声は彼女さんの泣き声だったようだ。
俺はほっと胸を撫で下ろした。
「何焦ってんだよ……あ」
──ピンポーン。
友人の通話口からインターホンの音が聞こえてきた。あの時と同じだ……。
「ごめん彼女来たみたいだから切るわ、すまんけどまたな」
彼女が今?じゃあさっきの泣き声は?
「おい!ちょっと待っ」
通話はそこで切れてしまった。
慌ててかけ直すが友人は電話に出ない。
俺は不安になり居てもたってもいられず友人の家へと急いで向かった。
すると携帯から着信が鳴り、俺は車を路肩に停め通話に出た。
「もしもし!?」
「あ、ごめんなさいね急に電話して」
友人の声ではない。
「ええと……Mのお母さん……?」
「ええ、お久しぶり……実はね、今大変な事になってて……」
電話はMのお母さんからだった。
そしてそのお母さんから、俺は衝撃的な事を聞かされた。
Mが数日前から行方不明になっているそうだ。
警察にも相談しているらしく、俺に心当たりがないか聞きたいとの事だった。
以上が俺が体験した話だ。
あの後友人の家に向かったが、玄関は開いており、部屋には友人のスマホがテーブルに置かれたままで誰もいなかった。
そのスマホを使って彼女さんに連絡すると、彼女さんはその日家に言っていないと答えてくれた。
あれ以来友人とは会えておらず、近々友人の親は警察に相談するとの事だ……。
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