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愛子ちゃんの傘
これは、私が幼い頃に体験した話です。
転校してきたばかりの小学校の教室でその日、私は一人居残っていました。
外は大雨、生憎と傘を忘れてきてしまった私がどうしようかと迷っていると、教室の隅で一本の傘を見つけました。
少しボロボロだったけど、少しでも濡れずに済むのならこれでもいいやと思った私は、その傘を借りる事にしました。
下校中、傘を差し歩いていた時です。
急に人影が接近してきました。
女の子……私と同い年位の子です。
誰だろう?驚き戸惑っていると、その子は馴れ馴れしく私の断りもなく傘の中に入ってきました。
「誰?」
立ち止まり声を掛けても女の子は返事を返しません。
それどころか隣に立ち並びニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべていたんです。
私は何だか怖くなりその場から駆け出しました。
雨の中ばちゃバチャと音をさせ走ります。
けれど先程の女の子も同じ速度で着いて来て、一向に離れる気配がありません。
段々とそれが怖くなり、私は半べそをかいて走っていました。
やがて横断歩道に差し掛かった時です。
急に隣に居た女の子が私の方をチラリと見たかと思うと、急に私を突き飛ばすように抱き着いて来たんです。
そのまま体制を崩し激しく道路に転んだ私は、顔をしかめながら顔を上げました。
その瞬間。
──キキーッ!!
目の前で車の激しいブレーキ音が響きました。
呆然としていた私に運転手が慌てて車を降りて私に駆け寄ってきました。
「大丈夫か!?も、もう一人の女の子は?君にしがみついてた子!?」
「しがみついてた……?」
当たりを見回しても誰もいません。
今のは一体……あの女の子は……?
そんな事があった次の日の事です。
借りた傘を返そうと朝早くに教室を訪れた私を見て、担任の先生が取り乱したように駆け寄ってきました。
そして先生からこんな事を聞かされたのです。
私が転入する一年前に、愛子ちゃんと言う女の子が、学校に忘れた傘を取りに戻る最中事故にあって亡くなったそうです。
傘は家族に引き取られたはずなのですが、気が付くと何故かその傘は教室の隅に置いてある。
そんな事が何度もあり、いつの間にかその傘には触れてはならないという、学校の中で暗黙の了解となってしまっていたそうです。
もう何年も前の話なのですが、今でも愛子ちゃんの傘は、その教室にひっそりと置かれているそうです。
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