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「どうもこうもあるもんか。猫の日に猫耳なんか出されたら、誰だってバカにしやがってと思うぞ? どうせそこいらで買ったパーティーグッズみたいな奴だろ?」
「違いますよ。美菜にそんなの付けさせるわけないじゃないですか」
そう言って、荷物の中から菅名は猫耳を取り出して俺の方に付き出してきた。何でもってんだよ、と突っ込もうとしたが、その前に現物を見て俺は驚いた。
「お前これ……」
「そうです。猫好きの造形師が、開発に三年の月日を要して作り出したという伝説のアイテム。本物の猫耳そっくりの猫耳です。いわば超猫耳と言ったところでしょうか。ちなみにこれはアメショ」
アメショだか刑務所だかは知らないが、超猫耳というネーミングには納得せざるを得なかった。何しろ見るからに安っぽくはなかった。外側は細かい毛でおおわれて撫で心地が良く、内側はややしっとりとしている。手触りの感じからすると、シリコンだとか樹脂だとかそんな感じだろうか。ヘアバンド部分はよくあるプラスチック製のそれだが、とにかく耳がリアルにできていた。耳の内側の複雑な凸凹もきちんと再現されている。
「凄いな……」
感心していた俺の耳に、次の瞬間とんでもない一言が飛び込んできた。
「先輩も付けて見ます? 似合うと思いますよ」
「はぁ?」
はらわたが一気に煮えた。
寄りにも寄って、一番聞きたくない一言をこの後輩は……。
だが、肝心の男にその怒りは全く伝わっていないようで、つらつらと言葉を続ける。
「割と気分屋な所あるし、平気で行方知れずになるし、結構猫っぽいと思うんですけど」
「ふざけんな。絶対やだね」
似合ってたまるか。
叩きつけてやりたい衝動をどうにか抑えたものの、やや強めに俺はその猫耳を菅名に投げ返した。
「わ、わ、ちょ……」
慌てたように手を伸ばし、それをキャッチしてから菅名はほぅっとため息を一つ吐いた。
「随分慌てるじゃないか」
「七万円ほどしましたから」
値段を聞き、俺は思わず聞き間違いかと思った。
猫耳一個に七万円? 何その常軌を逸した金の使い方。
だが、菅名の慌てぶりを見るに、冗談だとは言い切れなかった。
「たっか……」
「美菜の可愛い姿が見られるなら、別に高くないです。寧ろ安いぐらいです」
「本気か?」
「もちろんです。俺はいつだって本気です。美菜の事を愛してますから」
菅名は真っ直ぐに俺を見て、臆面もなくそう言いきった。
「だからこそ、俺は彼女のすべてが見たい。知らない彼女をもっと知りたいんです」
「猫耳案件でなければ、凄い喜ばれそうな言葉だな」
「真面目に言ってるんです」
「俺も真面目に答えてる」
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