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「なんで分かってくれないんですか!! 僕は決して安易な気持ちで猫耳着けてってお願いしているんじゃないんですよ。でも、普段こんな熱量で猫耳について語ったってドン引きされるだけじゃないですか!! だから、少しでも耳を傾けてくれる可能性のある機会を待つしかなかったんです。そこへ超猫の日ですよ。お願いするしかないじゃないですか。だって……だって、絶対可愛いんですもん。見たいにきまってる……。愛する人の可愛い姿を見たいって思うのは、そんなに悪いことですか?」
一気にまくしたて、ハアハアと荒い息を吐く菅名の顔は今や真っ赤だ。ちょっと目まで潤んでやがる。熱量の激しさは一目瞭然で、そこにおふざけ感など全く見受けられない。
だからと言って、それが純粋極まりない那古ちゃんへの愛の形かと言えば、それはまた疑問の残るところではあるが。ともかく、菅名の真剣味だけはだけは心に伝わった。
「菅名……、お前が真剣なのは伝わったよ。那古ちゃんに猫耳。確かに似合うと思う」
それは嘘じゃない。
というか、那古ちゃんはかなり可愛らしい容姿の持ち主なので、大体の装備は似合うだろう。
「けどお前、ちゃんと那古ちゃんにその想いを伝えてるのか?」
「え?」
菅名の目が一瞬泳いだのを俺は見逃してやらない。
「やっぱりな。照れくさくて恥ずかしくて、半笑いで言ったんだろ。それこそ、冗談めかして」
無言のまま気まずそうな表情を浮かべているのが、俺の予測の正確性を裏付けてくれていた。
「断られて当然だな」
「だって……やっぱり恥ずかしいというか……」
「その程度の思いなら、猫耳付けて、なんて言っちゃダメだろ。だって、付ける方はその姿をお前に晒した挙句、鑑賞されなきゃいけないんだぞ?」
「た……確かに」
そう。菅名は大きな間違いを犯したのだ。
装着者が抱える圧倒的なリスクを理解しきっていなかった。
「全身全霊をかけてお願いするんだよ。決して生半可な気持ちで見たがったんじゃないって事を伝えるんだ。お前の思いを那古ちゃんにきちんと伝えるんだ。同じリスクを背負うために、私は猫耳姿を見たがりましたって看板を首から下げた姿を撮って貰うぐらいの覚悟を見せるんだ」
「覚悟……。僕に足りない……」
愕然とした表情で彼は絞り出すような声でそう呟いた。
「そう言う事だ。それなのに、お前は那古ちゃんを怒鳴りつけた。大間違いもいいところだ」
「なんて……なんてことをしてしまったんだ」
頭を抱え、うめき声にも聞こえるその言葉を発し、菅名はテーブルに突っ伏した。
俺はその菅名にさらに語り掛けた。
「今お前は間違いに気づいた。つまり、わかるな?」
「はい。わかって……います」
そういって菅名はゆっくりと体を起こした。その目に宿る確かな光。
猫耳を鞄の中に戻し、彼はゆっくりと立ち上がった。
「よし、頑張れよ」
「ありがとうございました」
俺にぺこりと一つ礼をして見せた菅名は踵を返し、力強い足取りでカフェテリアを出て行った。
その後姿を見送り、俺は安どのため息をひとつ吐いた。
奴はもう大丈夫だろう。
それにしても、驚いたのはあの猫耳だ。
あんなに高い猫耳を冗談で買う奴はきっといないだろう。
俺もどうやら猫の日と正面から向き合う時が来てしまったようだ。
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