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二〇二二年二月二十二日の昼下がり。
世間では超猫の日だとか何とかで盛り上がっているらしいが、非常にバカバカしいと言わざるを得ない。猫の特番に猫カフェのチラシにやっつけ作りの猫グッズ。ま、そこまでなら良い。ここぞとばかりに譲渡会が開かれ、ペットショップには普段なら行かないような連中がやってくるのだろう。そして、一目惚れしちゃったとかなんとか愚かしいことを言って不幸な猫を増やすのだ。そうでなくても恋人同士が猫の日だからと語尾に「にゃん」をつけて会話したり、あるいは猫耳の装着を強要したりされたりと地獄絵図を繰り広げたりする忌まわしき日だ。
猫が可愛くないとは言わない。だが、必要以上に可愛さを強調し、偏った情報だけで愛でさせようとする行いは愚の骨頂と言わざるを得ない。むしろ猫を飼うリスクをこういう日にこそ強調して然るべきではあるまいか。
そう言うわけで、俺は迂闊に猫の日に迎合してしまわないため、世間から逃れて春休み中の大学へとやってきていた。そう、あくまで世間から距離を置くためだ。
大学のカフェテリアが営業していてくれたのは不幸中の幸いというべきか。
大半の学生は帰省したりバイトしたりで大学になんかやってこない。恐らくだが、職員や教授、それに同じ敷地内にある大学院生用に開けているのだろう。
普段では考えられない程静かな店内は、ぼんやりと時間を過ごすのにちょうどよかった。
こうして世間から距離を置き、このイライラとした気持ちを抑えたかった。
だが、運命はそう簡単に心の平穏をくれはしなかった。
「永田先輩、ここにいたんですか?」
いささか暗いように感じはしたが、よく知った声だった。
顔を上げれば、後輩の菅名怜雄が声で感じた印象の通り、暗い表情でそこに立っていた。
「探しましたよ。話聞いて欲しいから」
「今日の俺は心穏やかに過ごしたいんだ」
「見つけたからには話を聞いてください。探すの大変だったんですから。家にもいないし」
「だから、お前の悩みを聞いていられるほど……」
「ほんとに参ってるんですよ」
聞けよ人の話をさ。
無礼な後輩は、そんな俺の思いなどお構いなしに向かいの席へ腰を下ろしやがった。
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