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「あんた今食べちゃってお腹空かないの? まだ二時間目終わったばっかじゃん」  そんな声に顔を上げると、長野美月が傍らに立って見下ろしていた。  いや、物理的には単に「見下ろしていた」だけなのだが、その目つきたるや、文字を一つ減らして「見下していた」と言いたくなるような代物で。野元正志は、今口に入れたばかりの米飯を咀嚼し飲み込む音が、不必要にあたりに響いているような気分を味わった。 「なんだ、美月か。なんか用?」  それでも精一杯能天気を装う正志に、美月はさらに汚いものでも見るような目を向ける。 「下の名前で呼ぶのやめろ、アホ正志」 「なんだよ、合唱部の同期みんな下の名前で呼び合ってるじゃん。なんで俺だけ」 「あんただからに決まってるでしょアホ正志」  お前こそそんな呼び方すんなよな、と言う言葉をグッと飲み込み、ため息。 「わかったよもういいよ。そんで何、その長野のお嬢様が俺みたいなアホでバカでスケベで下賤なものになんか用ですかね」 「あらそこまでは思ってないから卑下することないわよ。『下賤』まで言わなくても」 「それ以外は思ってんのかよ!」 「まあそれはおいといて」 「流したな」  もう一度ため息。美月は気にする風もなく話し始めた。 「明宏くんのこと。なんか様子おかしいって、また早希がさあ」 「ああ、それか。またそういうあれか」 「そ。またそういうあれ」 「まったくなんであいつばっかモテるかなあ」
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