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「一応、聞いときたいんだけど」
と、正志。
「その子なんだな? 毎晩夢に見てた女の子って」
前ボタンを止めながら、明宏は無言で頷く。
「昨日、駅のホームで見たのも?」
「ああ」
「確信があるんだな」
「他に考えられない」
言って、明宏はまた傍の少女を見た。少女は頷く。
夢の女の子が、自分が夢だと認めた、だって? なんだそりゃ。
正志は肩をすくめた。
「オッケー。もうこんなのは俺の手には余る。一抜けだ。好きにしろよ」
「ち、ちょっとあんた、何勝手なこと」
慌てて大声を上げる美月に、ため息を一つ。
「勝手も何も、本来俺は傍観者だっつーの。元々関係なんかねーの。今さら抜けたって何の影響力もないの。だいたい、美月だってそうだろが」
「苗字で呼べよデコスケ野郎。ないことないことばら撒いてもいいの」
言われて正志は向こうを向いたまま乾いた笑いを漏らした。
「いいよ、今さら。どうせ俺の悪評は留まるところを知らないみたいだし。今教室に行ってみろよ、いきなり女子のコートを奪って教室を飛び出した変態やろーの噂で持ちきりだから。
「それは……悪かったわね」
流石にちょっと気が引けた様子の美月。その目が大きく見開かれる。
「ちょっとちょっとちょっと、明宏くん、まだ話は……!」
明宏が、再び少女の手を握り、何かに見切りをつけたように、歩き始めるところだった。美月の声にも振り返る気配はない。その上。
明宏を追おうと足を踏み出しかけた美月のコートを、引っ張るものがある。
「早希、あんた……」
「美月、ごめん、でも、もういいよ」
肩からずり落ちそうなコートを片腕で抑え、ほとんどうずくまらんばかりに身を縮め、俯いたまま、美月のコートを掴んで引く、早希。
「大体わかった。明宏くん、ずっとあの子のこと、夢に見てたんでしょ? そんな女の子が、目の前に現れたんでしょ? それってさ、もう運命じゃん。かなうわけないじゃん」
「早希……」
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