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「最初から、わかってたんだ。無理だったんだよ。ちょっと気になる男の子と、たまたま親しく話す期間があって、それで舞い上がっただけ。そんな中途半端な気持ちでさ、運命の相手に、太刀打ちできるわけないんだよ。もういい。もういいんだ」
「ふざけんな!」
不意に美月が大きな声を上げる。早希ばかりか、何やら感傷に浸った様子で明宏たちを見送っていた正志までが、びくっとして振り返った。
「わあ、なんだなんだ」
「アホ正志はまだしも早希まで! いいかげんにしてよ! なんだってえのよ! 運命? 手に余る? かなうわけない? 何よ! なんだってえのよ! 運命がそんなに偉いの!? かなうのがそんなに大事なの? かなおうとかなうまいと、届こうと届くまいと、想わずにいられない、願わずにいられない、それが恋ってもんじゃないの? 中途半端? 動機がどうしたって言うのよ! 恋愛の動機なんてね、十中八九つまんねーもんなのよ! たまたま席が隣になっただけで芽生えた恋がどれだけあったと思う? あんたその全部がくだらないとるにたらないもんだとでも言うつもり? 違うでしょ! きっかけなんて問題じゃねーのよ! 今何を願うのか、どれだけ強く願うのか、それが全部でしょ!? 過去も、未来も、どうだっていーのよ! 運命なんてクソ喰らえよ! 無駄だって、後ろめたくたって、人に言えなくたって……抱えて、つのらせて、こじらせて、自分が汚いヤツみたいに思えて、それでも捨てられなくて、相手のことを考えずにいられなくて! そんな時間の全部が、そんな気持ちの全部が、くだらないってぇの? 運命の前には意味ないからって捨てちゃえるような、そんなもんだって言うつもり? ふざけんな! ほんっと、ふざけんな!」
「美月……」
突然の感情の爆発に、呆然とする早希、そして正志。
その耳に、この朝四人目になる意外な声が、今度は外から、なげかけられた。
「あの、ごめん、お取り込み中のところ、いいかな?」
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