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「えーと、あの」  正志が口を開く。美月は爆発した感情の持って行き場がないと言った様子で、剣呑な目つきのまま黙っているし、早希も突然投げかけられた激しい言葉のショックから抜け出せずにいる。といって、放っておくわけにもいかないだろう。間の悪いおっさんだな、というのが正直な気持ちだったが、流石にそんなことは口にできない。 「どう言ったご用件で……来客者通用口はあっちですけど」 「あ、いや、ちょっと聞きたいことがあってね」  正志はその男を繁々と眺めた。黒いトレンチコートに、黒い帽子、そしてサングラス。何か格好をつけているつもりなのかもしれず、長身にはそれなりに似合ってさえいるが、そのことでかえって怪しい雰囲気が醸し出されてしまっている。小学校の通学路で立っていたら不審者として通報されるだろう。いや、高校の昇降口で生徒と話していることだって、十分すぎるくらい怪しい。痩せぎすの体のせいか、それともサングラスでは隠しきれない童顔が輪郭からうかがえるせいか、暴力の匂いは不思議なほどないのが救いだ。  正志は幾分かの警戒を込めて答える。 「なんです?」 「ちょっと人を探していてね。ここに来たって聞いたんだけど、見てないかな。君たちくらいの年頃で、白いコートと、白い帽子と、赤いマフラーをしてる……」 「えっ」  美月が反応する。早希も顔を上げた。 「おじさん、あの子のこと……」 「あの子!? 見たのか! 見たんだな! こりゃついてる。どこに行った? 学校の中か? どこにいるんだ?」 「いや、もういないです」  正志が、明宏たちが去った方角を指さす。 「どこに、っていやあっちの方ですけど。えーっと……ああ、バス停にいないみたいだから、ちょうどきたバスに乗って行っちゃったんじゃないですかね」 「バス停? 私も今バスに乗ってきたんだが」  男は後ろの方を指し示して言う。
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