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「ああ、庭根駅からのバスならあっちですね。こっちは新川通り方面。北二十四条とか、あっちに行くバスですね」
「……ややこしい!」
憤懣やるかたない、と言った様子で男が言う。
「それじゃ、もうひとつ、その子は、一人だったのか? 誰かと一緒じゃなかったか? たぶん、この学校の生徒と」
「ああ、それなら」
「ストップストップストーップ!」
美月が声を上げ、正志を押しのけるようにして前に出てきた。
「おじさん、あの子のなんなんですか? お父さん? にしては若いような」
「あ、ああ、まあそうだな。これでも君らのお父さんよりは君らに近い歳のつもりだよ」
「じゃあなんなんです?」
「親じゃないけど、保護者みたいなもんさ」
「みたいなもん、ってなんですか」
美月は容赦がない。
「正直、素性もわからない人に、同世代の女の子のことべらべら喋るのは……」
「おいおい、私がそんなあやしいおじさんに見えるのか?」
「失礼ですけど、どう見えるかって言うより、こんな時間にこんなところに学校関係者でもない大人がいて、あれこれ聞いてくるってだけで十分すぎるくらい怪しいです」
正志は内心舌を巻く。姿のことしか考えられずどう返答したものが咄嗟に考えた自分に比べ、なんとスマートで的確な答えか。見た目について不審者っぽいなどと考えた自分を、正志は恥じた。
男もこれには反論を思い付けなかったらしく、しばらく言葉に詰まった。が、そのうち肩をすくめ、
「まあいい。あの子を見つければわかることだ。邪魔したね」
「あ、あの」
そう言って歩き出した男に、思わず正志が声をかける。
「なにか?」
「ひょっとして、バス乗って追おうとしてます? 新川通りの」
「ああ、それが何か?」
「来ないんじゃないかな」
「来ない?」
「はい、そんなに本数ないんで。登校時間過ぎちゃうと」
「そう……なのか?」
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