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男はコートの内側からスマホを取り出して操作した。
「……行ったばかり、みたいだな」
ため息を一つ。
「まあいいさ、あそこに見えるの、待合所だろ? あの子がいない以上学校に入る意味もないし、用もないのにウロウロしてたらほんとに通報されかねん。あそこで待つよ」
「待ってください!」
再び踵を返そうとするところに、それまでずっと黙っていた早希が声をあげる。男だけでなく、正志や美月までが驚いて振り返った。
「あの、あの子のこと、知ってるんですよね? 誰なんですか? 教えてください! どうしてあの子はこの学校にきたんですか? 誰かと一緒じゃなかったかって聞きましたよね? その誰かを探しにきたってことですか? なんのために?」
「ちょっと早希、こんな怪しいおじさんに」
慌てて止める美月に、早希は小声で言った。
「美月、ごめん。あたしバカだった。美月の言う通りだ。あの子が誰だって、あたしが明宏くん好きなのは、変わらない……変えようがない。だから、知らなきゃ。手がかりがあるなら、聞かなきゃ。今はこのおじさんが、たった一つの手がかりなんだもん」
「ふむ」
男はちょっと面白そうに笑う。
「君たちさえよければ、私は構わんよ。このまま追いかけたって、どこでバスを降りたかさえわからんわけだし、こっちとしても情報は少しでも欲しい。どうする?」
「はい、おねが……」
「待ってよ早希、いくらなんでも、得体が知れなすぎるってば」
「話すだけなら、いいんじゃないの」
正志が割って入る。
「聞くだけ聞いて、納得できなかったら、逃げればいいじゃん。ここ学校だし。こっちのホームだよ。その上一対三」
「そりゃそうだけど……」
「美月、お願い」
美月は頭を抱える。
「あんたってば……ちょっとはあたしの……」
「えっ?」
「なんでもない! なんでもないけど……ああ、もう、しょうがないなあ!」
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