9.

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 男はコートの内側からスマホを取り出して操作した。 「……行ったばかり、みたいだな」  ため息を一つ。 「まあいいさ、あそこに見えるの、待合所だろ? あの子がいない以上学校に入る意味もないし、用もないのにウロウロしてたらほんとに通報されかねん。あそこで待つよ」 「待ってください!」  再び踵を返そうとするところに、それまでずっと黙っていた早希が声をあげる。男だけでなく、正志や美月までが驚いて振り返った。 「あの、あの子のこと、知ってるんですよね? 誰なんですか? 教えてください! どうしてあの子はこの学校にきたんですか? 誰かと一緒じゃなかったかって聞きましたよね? その誰かを探しにきたってことですか? なんのために?」 「ちょっと早希、こんな怪しいおじさんに」  慌てて止める美月に、早希は小声で言った。 「美月、ごめん。あたしバカだった。美月の言う通りだ。あの子が誰だって、あたしが明宏くん好きなのは、変わらない……変えようがない。だから、知らなきゃ。手がかりがあるなら、聞かなきゃ。今はこのおじさんが、たった一つの手がかりなんだもん」 「ふむ」  男はちょっと面白そうに笑う。 「君たちさえよければ、私は構わんよ。このまま追いかけたって、どこでバスを降りたかさえわからんわけだし、こっちとしても情報は少しでも欲しい。どうする?」 「はい、おねが……」 「待ってよ早希、いくらなんでも、得体が知れなすぎるってば」 「話すだけなら、いいんじゃないの」  正志が割って入る。 「聞くだけ聞いて、納得できなかったら、逃げればいいじゃん。ここ学校だし。こっちのホームだよ。その上一対三」 「そりゃそうだけど……」 「美月、お願い」  美月は頭を抱える。 「あんたってば……ちょっとはあたしの……」 「えっ?」 「なんでもない! なんでもないけど……ああ、もう、しょうがないなあ!」
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