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「いや、悪くはないが……どっちにしてもやることは一つだしな。ただ、本人たちが納得しづらいというか……」
「さっきからなにぶつぶつ言ってるんですか」
と、棘のある声をあげる美月。
「勝手に呟いてないで、ちゃんと説明してください」
「あ、ああ、そうだったな」
正志が同情に満ちた視線を向けてくるのには構わず、雄馬は話し始めた。
「君たち、ドッペルゲンガーって聞いたことはあるか?」
「ヒーローものかなんかですか」
「どっちかというと悪役の名前よね」
正志と美月が揃って適当なことを言い、早希はおずおずと手を挙げた。
「聞いたことあります。もう一人の自分、みたいな」
「分身の術?」
「実体があるなら影分身よね」
混ぜ返すつもりはなさそうだが本気で無知らしい二人。雄馬は小さく首を振って、続ける。
「もう一人の自分、というのはだいたいあってる。一人の人間が別々の場所で目撃される、そんな現象のことだな。術とか技とかそういう類ではなく、ただ、何の理由もなく、それはあらわれ、どこへともなく消えてしまう。目撃するのは本人の場合もあり、第三者の場合もある」
「なるほど、忍術じゃなくて都市伝説ですか」
と、正志。
「そうよね、そんなこと実際にはありえないもの」
美月も頷いて言う。
「ところがそうとも言いきれない。古来、ドッペルゲンガーが目撃された例というのは意外に多いんだ。有名なところでは文豪ゲーテやイギリスの女王エリザベス1世、エイブラハム・リンカーン。もっと新しい例もある。芥川龍之介なんかはその代表例だな」
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