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「新しいって言ってもずいぶん古いですよね」
と美月。
「信頼できる話とは思えません。それこそ、都市伝説としか」
正志も頷く。
早希だけは真剣に何か考えている風だったが、やがてハッとして顔を上げ、言った。
「思い出した、確か、ドッペルゲンガーを見た人って、まもなく死んでしまうって」
「なにそれ」
美月が鼻しらんだようにいう。
「ますます都市伝説じゃない」
「まあ、ごく最近の話となると、よく知られている例はほとんどないのは事実なんだが」
雄馬はめげた様子もなく続けた。
「複数の目撃者による記録が残っているものもあるんだ。例えば十九世紀のフランス人、エミリー・サジェ。教師だった彼女は、授業中、生徒たちに、本人の傍にいて本人そっくりの動きをするドッペルゲンガーを目撃されている。教室の外に本人が、中にドッペルゲンガーが現れたこともあった。彼女は死にこそしなかったが、ドッペルゲンガーが出現した後にはひどく疲れたようにやつれていたという」
「集団幻覚とか、そういうのじゃないんですか? 子供、とか思春期とか、そういうの起こりやすいって聞いたことあります」
「君らの年齢で『思春期』と言われてもな」
雄馬は苦笑する。
「だが、まあ、そうだな、確かにそういうことは言われている。しかしそれでは、エミリーがげっそりとやつれてしまったことの説明がつかない」
「でもイレギュラーなんでしょ? さっきは現れた後には死んでしまうって」
「直後に死ぬわけではないからね、『死期が近い時に現れる』というのが正確なところだ。だとすれば、エミリーがやつれたのも、死に至る可能性があったことだと解釈することが可能だ」
「ずいぶん都合の良い解釈に思えますけど。じゃあ他の人たちも『やつれる』って過程を経て亡くなったんですか? エミリーが死を回避できた理由は?」
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