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「頭がいいな、君」
「理屈っぽいんですよ」
と、正志が言う。
「いつもこの調子なんで、まとまりそうなミーティングがしょっちゅうひっくり返されたり」
「アンタたちがいい加減すぎるのよ」
美月がぴしりと言う。
「でも……」
早希が口を挟んだ。
「美月、あたし、思うんだけど……そんな都市伝説の一つ一つがなんだったかと、今なにが起こってるかは、別の話だよね」
「そりゃそうだけど……おじさんがドッペルガンガンなんてわけのわかんない話始めるから」
「ドッペルゲンガー」
雄馬は落ち着き払って訂正する。
「まあそう言うなら、長々しい説明は取っ払ってもいいんだが。ただ一つだけ言わせてもらうとな、都市伝説ってのはそうバカにしたもんじゃないぞ。一つ一つの逸話は、確かに実際に起こったことだとは限らない。場合によっては全部ただの噂、作り話、あるいは君の言う集団幻覚みたいなものだってこともあるだろう。だが、それぞれのエピソードの間に共通する要素がある場合、それはなんらかの……理屈の上では全く無関係なものであれ、なんらかの現実を反映している可能性が高い。現実に起きている何かが、人の集合的無意識に物語の型を作り出し、それが都市伝説として語られる。そのようにして、都市伝説はしばしば同時多発的にして発生し、あるいは出どころが一つだったとしても、皆が共通して持っている『型』に合致するが故に、急速に広まっていくことになるんだ」
「ユング派が喜びそうな話ですね」
美月は冷たく言う。
「で、結局なんなんです。その、どんぶりゲンガーとかいうのがどうしたって」
「君、わざと言ってるだろ。ユングの名前まで出してこれるのにドッペルゲンガーを知らないとは思えない」
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