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「じゃあ、はっきりわかるわけじゃないんだね?」
明宏が言う。少女はちょっと首を傾げ、言った。
「うん……」
大通公園。
北二十四条でバスを降りた後、すぐに地下鉄南北線に乗り大通まで移動してきたのに、明確な目的はなかった。
バスの中では、二人ともほとんど黙ったままだった。明宏の方はいくらか自分のことを話し、少女もそれを聞いて頷いてはいたものの、彼女の方では自分のことが全くわからず、話はすぐに途切れてしまう。会いたかった相手に会えた、その高揚感で飛び乗ったバスだったが、降りた時には、明宏は半ば途方に暮れていた。彼女と離れがたく、共にいることを嬉しい、いやむしろ当然だと感じることに変わりはなかったものの、そうであればあるほどに、この後どうするのか、いったい自分は何がしたいのかと考えずにはいられない。
その結果が、とにかく目立たないことを優先した、この大通への移動だった。
だが、その一〇分足らずの間に、少女の口から出た言葉が、明宏に初めて行動の指針らしきものを与えていた。
「これからどうしようか」
つぶやくように言う明宏に、彼女は小さな声で、こう言ったのだ。
「ツリー。大きな、クリスマスツリーを、一緒に、見たいの」
「クリスマスツリー?」
「うん。あなたと会うまで、わからなかったけど……それを、ずっと、見たかったような気がする」
ちょうどいい、と思った。その手のものなら街中の方がいいだろう。実際に思い当たる場所があるわけではなかったが、今の季節ならあちこちにあってもおかしくはない。
だが、最初に訪れた大通公園一丁目のツリーを見上げて、彼女は申し訳なさそうに首を振ったのだ。
「これじゃないと思う」
「具体的に見たいツリーがあるって言うこと?」
「わからない、けど……」
困ったように顔を伏せる彼女。
「じゃあ、はっきりわかるわけじゃないんだね?」
「うん」
明宏は考え込んだ。
こうなると、あちこちにあることは、かえって障害にしかならない。
「ま、片っ端から行ってみようか」
そういってクリスマスツリーのある場所を検索しようとスマホを手に取る。彼女は画面を覗き込む。
彼女とあちこち歩き回れるなら、それも悪くないな。
そんなことを考えている自分に、明宏は新鮮な驚きを覚える。
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