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「ここでもない、か……」
美月はスマホのメモ帳を操作しながら言う。
郊外の可能性がありそうな場所に男たちを向かわせる一方、美月と早希の二人は、街中の「それっぽい」喫茶店などを片っぱしからチェックしていた。待ち合わせですと言って店内を見渡し、おかしいなあとかなんとか呟きながら店員に自分たちくらいの男女二人組が来なかったか聞く。平日で時間が早いこともあって、多くの店で考えるまでもなく否定的な答えが返ってきたし、わずかに反応があった店でも、女の子の服装……白いコートと赤いマフラー、という特徴的な見た目について話すと、「はっきり覚えてないがそんな目立つ格好ではなかった」と言う返事が返ってきた。
はっきり言って美月はその手のことには疎い。カップルがデートに選びそうなお店と言われてもピンとこない。だがそんな美月でも、早希のセレクトしたお店を巡るうちにだんだん傾向が飲み込めて来た。関心がないだけで、区別そのものができないわけではなかったのに気付かされた、というか。
(要するに)
美月はこっそり思う。
(早希っぽいお店、ってことよね)
そう、美月には、早希の選ぶお店は、どこもかしこも、早紀と同じ雰囲気を持っているように思えた。
過度に明るくはないが薄暗いわけでもなく、基本的には白を基調とし、さりげない丁度や装飾がお洒落。色味がある場合は暖色系。だが濃いピンクや原色ではなく、あくまで淡い色彩。
”オンナノコ”って感じなのにわざとらしさがない、強い主張はないように見えて実はちゃんとした考えも持ってて、時に頑固。そんな早紀と、派手ではないけど確かなコンセプトを持ったお店の様子のイメージが、早希の中で重なる。
わかってしまえば、美月にもできるとことはあった。早希に覚えのあるお店を巡る間に、それっぽそうなところを見つけては、あそこにも行ってみようと声をかける。早希の選ぶ店はオフィスビルの片隅やちょっと裏の通りなどマニアックな場所にあったりもして、それらを結ぶ間には何もない場所も多かったけど、それでも目を光らせれば何軒かそれっぽいところを見つけることができた。
(でも……)
美月はふと思う。
(どこも、あたしは好きだけど……こんなことで見つかるのかな?)
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