魔法の箱貸します

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シトシトと長雨が続く1週間だった。 次の週は、綺麗な晴れ空で僕は高校の帰り道、いつもとは違う道を駅まで歩いてみた。 気分がいいから単なる散歩だ。 知らない所に入ったりはするが、駅の方角に向かって歩く。 そして、普段ならそんな所通ったりしなかった道へ出た。 父が見たら懐かしいとでも言うかも知れない。 スナックと書かれた看板やら、油で汚れた中華料理店、店名が消えかけた喫茶店などが並ぶ細い路地を見つけたのだ。 "こんなところあったんだ"と歩いた自分も辺りを見渡しながら、ゆっくりと歩を進める。 そこで、一軒のアンティークショップを発見した。 他の店が寂れている事もあって、アンティークショップ自体が、本当に価値のあるアンティークの家具などが置かれているのか、ただ、年季の入った最近の古いものを置いてあるかは分からない。 それより、店のドアに「サラマドル貸します」とマジックで書いて貼ってあるのが気になった。 ……サラマドル? 聞いたことない。 好奇心が勝って店の中に足を入れた。 「いらっしゃい」 ごちゃごちゃと色々な物が並べられた隙間の、奥のカウンターから太った男が、僕の方に顔を覗かせた。 僕がカウンターに近づくと、手に持っていたパイプを吸うのをやめ、「何かお探しですか?」とニンマリと笑った。 薄汚れたシャツを着て、ボタンが引きちぎれそうなくらい太った体を揺らして、椅子に座り直す店主。 少し怖くなったが、僕は「あの、ドアに貼ってあったサラマドルってなんですか?」と聞いた。
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